カダフィ軍、反政府軍共に戦術を変更

2011.4.7
追加 同日 17:06


 military.comの記事からリビアの最新情勢を見ていきます。

 NATO軍は、カダフィ軍の重火器の3分の1が破壊されたと言いました。しかし、ミスラタ(Misrata)のカダフィ軍はパイロットから狙われるのを避けるために、戦車やその他の重装備を民間の地域に移動して戦術を変えました。ミスラタの医師は、カダフィ軍は過去2週間、民間人がいる場所に重火器を置いていたと、それを裏づけました。「彼らは対空兵器と戦車を密かに街へ入れました。それらは集合住宅と木の間にいます」「彼らは農民が街の外で使う大型の農業用トラックで装備品を偽装します。彼らは迫撃砲を民間車両で運んでいます」と、報復を恐れて匿名を希望した医師は述べました。

 反政府派は月曜日にブレガ(Brega)の一部を空爆の支援で奪取しましたが、火曜日に反政府派に対するロケット砲と大砲の斉射があり、政府の攻撃能力が無傷のままであることを示しました。「これを見るとき、状況は非常に悪いです。我々は彼らの武器に対抗できません」「航空機が戻ってきてそれらを攻撃しないと、我々は戻り続けられないでしょう」と反政府軍に加わった元兵士、カマル・ムガラビ(Kamal Mughrabi)は言いました。

 反政府軍の政府軍に対するロケット砲と迫撃砲の攻撃は、攻撃的な対砲兵射撃(敵が砲撃した地点を狙い撃ちする砲撃)を受け、反政府軍は多くの部隊を数十マイル離れたアダビヤまで急いで後退させました。国際的な航空パトロールからの即時の対応はありませんでした。しかし、朝早くに、反政府派の位置へ向かう8台の政府車両に対する空襲があったと監視チームのアベデル・バセット・アビビ(Abdel-Basset Abibi)は言いました。

 NATO軍のマーク・ヴァン・アム准将(Brig. Gen. Mark Van Uhm)は、火曜日にカダフィ軍の兵器は30%が破壊されたと言いました。月曜だけで、14ヶ所の地上の目標を攻撃し、レーダー、軍用品集積場、装甲車両とロケット砲を破壊しました。月曜日に計画された攻撃任務の4分の3は爆弾を落としたり、ミサイルを発射せずに帰投しました。それはカダフィ軍がパイロットに民間人と政府軍の区別を難しくしているからだとアム准将は言いました。

 反政府軍は、より訓練された兵士、より重火器がある戦線への空爆に助けられてはいるものの、より経験を積み、装備のよい政府軍に対処するのに苦労しています。

 政治面に関する記述は省略します。

 タンカーが反政府派の最初の石油輸出のためにトブルク近くに到着しました。これは彼らに潜在的に重要な資金を提供します。タンカーはリビアが1日に平均して産出する160万バレルよりも少ない100万バレルを運搬できます。アナリストは出荷を象徴的な前進を見ました。

 military.comによれば、反政府派の戦術の変化が見られました。

 最前線ではここ数日、トラック搭載のロケット砲の部隊が秩序立って動き、グラートロケットの斉射を政府軍に放ち、それから対砲兵射撃を避けるために数百ヤード前進しました。新しく得られた衛星電話とGPS装置を持つ前進観測員は攻撃を誘導します。

 しかし、より組織化され、捕獲した重火器で増強され、世界で最高の空軍に支援されても、反政府派はカダフィ軍を圧倒するにはほど遠く、首都トリポリに進撃することは言うまでもありません。反政府派の核は、先週、簡単な訓練を受けた数百人の民間の志願者に支援される、反政府派についた約1,000人の軍人です。彼らと並び、数千人の訓練を受けていない、本当の戦闘でほとんど使えない志願者がいます。

 紙の上では、カダフィ軍は非常に強力に見えます。リビアで最精鋭の、カダフィの息子ハミス(Khamis)、アル・サーディ(al-Saadi)、ムアタシム(Muatassim)が率いる3個旅団は約20,000人だと、ケンブリッジ大学国際問題研究所のリビア研究家、ジョージ・ジョフィ(George Joffe)は言いました。「リビアの唯一組織化された陣形はカダフィ政府の支配下にあります」。しかし、それらの一部だけが反政府派の東部からの前進に対抗するのに使えます。残りはミスラタの包囲か、国土の残りを押さえつけるために必要です。「彼らは部隊を南部、中部、トリポリタニア(リビアのこと)に配置し続けなければなりません」「彼らは薄いを通り過ぎて引き延ばされています」とジョフィは言いました。空爆がカダフィ軍が重火器を用いるのを阻止しなくても、彼らは反政府派が保持する東部を占領し、事実上、反政府派の首都であるベンガジを奪取するには十分な人的資源がいません。「ミスラタを鎮圧するために彼らは2週間かかりました。ベンガジを奪取するのにどれだけかかるのかは想像に難くありません」。

 2009年の「Balance of Forces」はリビア陸軍は1,914 台の戦車を持つと見積もります。それらの半分は、スペアパーツの欠如により使用不能で、181台は1980年代に作られた比較的新しいロシア製のT-72だと考えられます。

 「空襲か、我々がもっと増員され武器を持つかが頼りです」と反政府派のために戦うプロ軍人、ムフター・オマル・マムザ大尉(Lt. Muftah Omar Hamza)は言いました。「我々は戦車、ロケット砲、グラート(ロケット)が必要です」。

 ベンガジ、アダビヤとベルガの間の砂漠には、空爆に吹き飛ばされたカダフィ軍が誇る戦車部隊の残骸があります。しかし、政府軍は戦術を変えました。彼らは空爆に弱い重装甲部隊を前線で使うのを止めました。彼らは反政府派のようにピックアップトラックで移動し、反政府派に雨のように降り注がせる大量のロケットも持っています。

 それらと蓄えられた重火器は、反政府派がシルトを取り戻すのを困難にします。より多くの空爆作戦だけが行き詰まりを打破しそうです。今のところ、空爆は反政府派の時間を稼ぎました。時間は反政府派が部隊を編成し、重火器を買い始めさせますが、彼らがカダフィ軍と同等になるかは不明です。


 これらの記事には重要な戦術上のポイントを示しています。

 リビア軍が民間に紛れて行動するのは、他の戦争を見れば予想できることで、目新しくはありません。当然やっていることと考えられたことが確認されただけです。反政府派と同じピックアップトラックを使えば、空爆も受けにくくなります。反政府派が誤爆を防ぐには、正規軍がやるように、空軍に作戦区域を知らせ、自軍をその範囲でだけ活動させることです。当初から、そうした連絡役が派遣されているかに注目していましたが、すでに派遣されているCIAエージェントが、そうした役割を担っているとは考えにくいのです。

 武器提供は、対戦車・装甲車両兵器で十分でしょう。カダフィ軍から参加した者たちは武器も持っているはずです。街と街の間の砂漠にいる戦車、榴弾砲、ロケット砲は空爆で破壊できます。そうすれば反政府派は目標とする街の近くまで行き、街の攻略にかかれます。市街では空爆は使わない方針なので、市内に入った反政府派は携帯式の対戦車兵器が大量に必要になります。

 それ以上に重要なのは、敵兵力の分散です。

 多くの国に共通するのですが、大軍を持っていても、一度に一ヶ所に集中できない場合が多く、そのために各戦域で敗北することがあり得るのです。中国やロシアのように広大な国境線を持つ国は、紙の上では大軍を持っていることになり、日本人などは強い脅威と感じます。しかし、部隊を一ヶ所に集中すれば、他の場所が手薄になり、そこで紛争が起きたときに対処できなくなります。

 リビアで動乱が起きたとき、私は首都の西部にあるザウィヤの反政府派を守ることが重要だと書きました。それは、カダフィ軍に余計に戦力を分散させるためです。NATO軍の意見が集約されるまで時間がかかり、その間にカダフィ軍はザウィヤを掃討してしまいました。また反政府派を復活させないための兵力は必要ですが、戦闘が片付いたのはカダフィ軍に朗報でした。

 これは欧米諸国の軍隊にも言えます。イラクやアフガニスタンに大量の軍隊を送ったりしなければ、リビアの動乱には余裕で対処できたはずです。うまくすれば、北アフリカに安定した民主国家を得られるチャンスを自分の手で小さくしたのです。

 このように、他国からの挑発があっても、それに全力で対応してはならず、常に予備兵力を維持しなければなりません。

 そこで現在、NATO軍がすべきなのは、やはり早く反政府派にミスラタを奪取させることです。トリポリ陥落のためには、拠点として使える都市が必要です。ミスラタは大きな街で、支援の拠点となる空港や大型の港もあります。トリポリの大きさを考えると、ミスラタくらいの街がいるのです。また、現在は未経験の反政府派の志願者を1人前にする期間も必要です。

 カダフィ政権が内部崩壊する可能性もありますが、基本的にはトリポリ陥落が戦闘終結の条件です。そのために、どこまで反政府派の戦力を集中するか、合わせてカダフィ軍の戦力を分散させるかが重要です。



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