IAEAは事態を楽観視か

2011.3.19
修正 2011.3.20 13:30


 18日付けのIAEAの報告を見ると、かなり楽観的で、ほぼ日本の発表通りです。(報告書はこちら

 以下に要点をまとめました。

1号機、2号機、3号機の状態は、かなり安定しているようです。

2号機に昨日、海水が注入され、壊れた屋根から白煙が観察されました。

昨日ヘリコプターの対象となった3号機では、放水は使用済み燃料プールに散水できず、海水が圧力容器に注水されました。

3号機と4号機の使用済み燃料プールには重大な安全の懸念が残っています。使用済み燃料プールの水位と温度の情報はありません。

全施設への電力回復の努力がなされています。その他の肯定的な進展は、5号機と6号機を冷却するためのディーゼル発電機は電気を供給しているということです。

共用使用済み燃料プールには問題はありません。プールの中の使用済み燃料はすべて水に覆われています。

 楽観的だと言うのは、原子炉がかなり安定しているという点です。

 東京電力の発表には、1号機、2号機、3号機については、原子炉内部の水位と圧力に関する記述があるので、データは得られているようです。しかし、気になる原子炉内部の温度は書かれていません。1200度でウラン燃料を包むジルコニウムが溶け、それが圧力容器や格納容器を破損し、外部の水分と反応して水蒸気爆発を起こし、それが放射線を大量に拡散することが怖いのです。

 核技術者たちは、常に原発には5つの壁があり、それが放射能漏れを防いでいると言います。

ペレット(ウラン燃料)

燃料棒(被覆管)

原子炉圧力容器

原子炉格納容器

建屋

 しかし、すでに被覆管が一部溶けたことは東京電力も認めており、建屋は水素爆発で吹き飛び、2号機は圧力制御プールは破損したことが疑わしい状況です。私は1号機も水素爆発直前の直下型の振動は圧力容器や格納容器が破損した証拠かも知れないと考えます。残った壁は圧力容器、格納容器だけなのであり、これらのどちらかがすでに部分的に壊れている可能性があるのです。事態は最終段階ではないけども、それにかなり近い状態です。

 圧力容器と格納容器は非常に頑丈に作られており、圧力容器から溶けたウランが流れ出ても、密閉されていて外に漏らさないとされています。なるほど、その通りだろうと思います。何があっても、最終的にこれらが残れば、放射能は外に出ないでしょう。しかし、想像を超えた地震に襲われた後でも、設計通りの性能を維持しているのかという問題が残されます。圧力容器が高熱で溶けたとか、格納容器のコンクリートに亀裂が入っている可能性を考えざるを得ません。ケーブルや管を内部に引き込む必要から、なにより、完全な密閉は無理なのですし、いまの我々には損傷の度合いを確認しようがないのです。

 アメリカが福島第1原発から80km以上離れるよう、日本にいる自国民に勧告したのは、最後に残されている危険が起きた場合に備えてのことでしょう。また、それに備えて、ロバート・ウィラード太平洋軍司令官が米国防総省に、450人の放射能と関連する問題を管理する専門家の部隊を派遣するよう要請しています。枝野官房長官の記者会見で、ある記者が、アメリカは使用済み燃料プールが破損していると考えていると発言していました。(国防総省の記事はこちら

 日本の危機管理は技術的な要素を基盤にして、それに対応できる方法を考えます。アメリカは最悪の事態まで想定し、そのための準備をします。ここに危機に対処する哲学の違いがあります。

 これは日本も参考にすべき事柄です。技術者の話だけ聞くべきではありません。現に、経済的な損失は大変なものです。様々な企業が休業して電気を節約し、鉄道会社は運行本数を減らし、プロ野球は客入りの見込めるナイターを自粛しようとしています。間接的に聞いた話ですが、関東だけでなく、北海道からも東北に送電しているといいます。事態がさらに悪化した場合、北海道も計画停電の対象となる可能性はゼロではないのです。このように経済への影響が大きいのに、核技術者たちの自己満足的な意見だけを聞き、それに従って対策を立てるべきではありません。そこに政治力の意義があるのだと考えます。

 それから、共用使用済み燃料プールの水は、読売新聞が11日の地震後、水温や水位も測定できなくなったと報じています。なぜ燃料棒がすべて水で覆われていると言えるのかが疑問です。東京電力の発表にも、そこまでは書いてありません。なぜ、IAEAがこう書いたのかは理解できません。一応、IAEAに質問のメールを出してみました。

 目新しいのは、日本が国際原子力事象評価尺度(the IAEA International Nuclear and Radiological Event Scale: INES)の評価を5にしたことについて、新聞よりも詳しく書いていることでした。

彼らは冷却機能の完全喪失による1号機、2号機、3号機の炉心損傷をINES等級で5と評価しました。

使用済み燃料プールの冷却と水補給が失われた4号機の状態は3と区分されました。

1号機、2号機、4号機の冷却機能の喪失は3とされました。

 それから、機動隊、自衛隊、消防の防水により、放射線が少し弱まったと報じられていますが、原発周辺の放射線レベルは常に上下しており、放水の結果かは分かりません。楽観的に見れば効果ありですし、悲観的に見れば無意味だったのです。こうした僅かな効果について議論することは大した意味がありませんが、今日の新聞には楽観的な見方が広がっていました。

 今朝、陸上自衛隊のヘリコプターがサーモグラフィで原子炉の温度を計りました。外部の温度なので原子炉内部の温度ではありませんが、使用済み燃料プールの温度については参考にはなります。



Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.