エジプト動乱は混迷状態へ突入か?

2011.2.4


 military.comにエジプト動乱に関する記事が3件報じられました。

 一つは米軍の自国民保護の対応についてです(記事はこちら)。エジプト周辺にいる米軍の概略が分かります。現在のところ、米軍は事態を静観していますが、危機に備えて待機しています。

 他の2件の記事は、比較的穏健なデモを流血の事態へと変化させた大統領支持者への攻撃を中心に書いています。やはり、この攻撃は大統領支持派が意図的に引き起こしたとの観測があり、街から姿を消した警察官の関与すら疑われています。(記事

 私は、ムバラク支持者たちが反ムバラク派たちに暴力を使わせ、暴徒として印象づけようとしたと推測します。こうしたムバラク支持派と、反ムバラク派の足並みのズレは、この動乱を一層混迷させ、当初、無血革命かと思われたこの動乱に、イスラム過激派の参入を招く危険を生んでいます。

 2件の記事から、気になるところを抽出しました。これらの記事は、ムバラク派が反ムバラク派を攻撃したことと、エジプト軍が両者の間に割って入り、さらなる対決を防ごうとしていることを説明しています。

 反ムバラク派はムバラク政権が抗議行動をつぶすために、暴漢と私服警官を使ったと非難しました。彼らは攻撃者から奪ったという警察バッジを見せました。一部の政府職員は雇い主から通りに入るように命じられたと言いました。

 国家がタハリール広場(Tahrir Square)の抗議者に暴力を用いたという懸念は、数十年エジプトをアラブで最大の盟邦としてきたワシントンからの激しい非難を招きました。「政府が暴力を扇動したのなら、直ちに止めなければならない」とロバート・ギブズ報道官(Press Secretary Robert Gibbs)は言いました。

 エジプト内務省は、抗議者を攻撃するために群集に私服警官を送ったことを否定しました。

 抗議を組織するムスタファ・エル・ナガル(Mustafa el-Naggar)は、彼は木曜日未明に救急車へ運ばれる抗議者3人の死体を見たと言いました。彼は銃火は少なくとも3カ所、遠方から来て、秩序を維持するために数日間広場を囲んでいるエジプト軍は介入しなかった、と言いました。

 APテレビニュースの映像では、2体以上の死体がムバラク支持派が集まる幹線道路の陸橋に沿って引きずられるように見えます。ある時点で、見たところ攻撃者を高い見晴らしのよい場所を奪うため、戦車が濃密な煙幕を陸橋に沿い、広場の北側に向けて広げました。

 与党・国家民主党(the National Democratic Party)の重鎮、ムスタファ・エル・フィクィ(Mustafa el-Fiqqi)はAP通信に、水曜日の抗議者の攻撃は与党につながるビジネスマンに責任があると言いました。

 アメッド・サメア・ファリド厚生大臣(Health Minister Ahmed Sameh Farid)は、水曜日にタハリール広場で3人が死亡し、少なくとも611人が負傷したと言いました。死者の1人は広場近くの橋から落ち、その男性は私服でしたが、軍のメンバーかも知れないと、ファリド大臣は言いました。大臣は他の2人の殺された若い男性がどうかは言いませんでした。彼らが政府支持者か反ムバラク派かは不明です。

 国営テレビは、オマル・スレーマン副大統領(Vice President Omar Suleiman)が若者に軍隊の呼びかけに注意を払い、秩序を回復するために家へ帰るよう求めました。一方、反ムバラク派のモハメッド・エルバラダイ(Mohamed ElBaradei)は、軍に直ちに介入し、この虐殺を止める決断をするよう求めた、と伝えました。

 動乱に対する外国の反応と、エジプト政府の反発は、もう一つの記事にも書かれているので省略します。

 抗議者と政権支持者の石の投げ合いは2日目になって、無法状態を拡大し、略奪と放火が起こりました。ムバラクを支持する暴漢たちが記者、外国人、人権団体を攻撃し、軍が外国人記者を検挙しました。

 エジプト政府は外国人が混乱を煽り、ムバラク打倒のために通りに集まった人たちを支援しているというイメージを広めました。

 「この規模のデモがある時、やって来て主導権を握る外国人がいて、彼らには抗議者のエネルギーを高めるという課題があります」とスーレマン副大統領は国営テレビで言いました。ワシントンでは、国務省広報官P・J・クローリー(P.J. Crowley)は、彼が「カイロにおける国際ジャーナリストを脅迫する協調された活動」と呼んだものを非難しました。

 政府支持者の群集は、抗議者の中心地である広場の外の通りで外国人ジャーナリストを棒で叩きました。ワシントンポスト、ニューヨークタイムズを含む大勢のジャーナリストは治安部隊に拘束されたと報じられました。ギリシャの新聞記者はねじ回しで足を刺され、カメラマンは彼の道具を破壊した攻撃者に頭を殴られました。アルジャジーラは、臨時ニュースにおいて軍に事務所とジャーナリストを守るよう訴え、同局は特派員2人が攻撃されたと言いました。

 人権活動家も狙われました。憲兵隊がエジプトの人権団体を急襲し、アムネスティ・インターナショナルとヒューマン・ライト・ウォッチの核人を含む少なくとも5人を逮捕しました。


 時間がないため中途半端な紹介なのですが、エジプトの動乱が先行き不透明な状態になりつつあることは理解できるはずです。記事にはほかにも様々なことが書かれているので、興味のある方はお読みください。

 スレーマン副大統領が言う外国人勢力による介入は事実というよりは、批判の矛先を外国に向けさせ、反対勢力の勢いを殺ごうという狙いがあります。また、政府の一部がデモ隊だけでなく、外国人ジャーナリスト、人権団体を攻撃しています。これらの組織は国の実状を海外に流布する恐れがあるので、行動を制限したいのでしょう。ムバラク大統領としては、何とかして選挙までは大統領の座に留まり、名誉ある引退と、自分の後継者(息子以外の後継者ですが)を次の大統領にしたいところでしょう。親ムバラク派が突然現れたのには、そういう理由があると考えます。おそらく、政府内部も思惑はバラバラで、部署により異なる行動を取っているのでしょう。

 本日は時間がないため、これまでとします。しかし、事態は急速にコースを変えつつあるように思われ、目が離せません。



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