陸軍がローレンス上等兵の裁判を決定

2011.2.3


 military.comによれば、昨年、アフガニスタンで眠っているタリバンのメンバーを射殺したデビッド・ローレンス上等兵(Pfc. David Lawrence)について、2人の軍医が事件当時に彼が精神病で善悪の判断ができなかったと言ったにも関わらず、陸軍は軍事裁判にかけると決定しました。

 軍の医師が被告が精神病で善悪の判断がつかなかったと言った後で軍事裁判を行うのは稀だと、ボストンのニューイングランド法科大学院の教授で陸軍の退役弁護士、ビクター・M・ハンセンは言いました。「私がそれが行われたどんな実例でも考えるのは難しいです」と彼は言いました。

 陸軍当局者は、裁判を行う決定を行ったのは、ローレンス上等兵の部隊が駐屯するフォート・カーソン基地の司令代理、ジェームズ・ドーティ准将(Brig. Gen. James Doty)だと言いました。同基地の当局者はローレンス上等兵の診断について述べることを拒否しましたが、文書による声明で、決定が陸軍の精神委員会の「高等軍事裁判における審理を始められ、被告人は彼の弁護に知的に協力できると政府は考える」という報告に基づいていると言いました。

 精神委員会は1月20日のローレンスが事件時に統合失調症で、PTSDであったという報告の前に、ローレンスに3日間にわたり7時間半の面接を行い、彼の医療記録とその他の書類を評価しました。委員会はローレンスはいくつかの精神の疾患か障害を持っており、嫌疑のかかっている犯罪的違反行為の時において彼の行為の本質と資質や不法性を理解できなかったと言いました。委員会は、ローレンスは彼に対する訴訟手続を理解でき、彼の弁護士を助ける能力があると言いました。ハンセンは、陸軍当局者は精神委員会の結論に欠点があるとか、ローレンスが精神病のために無罪になれば、彼はそうしなければ受けられない精神病の治療を受けることになるかも知れないと彼らが考えているかも知れないと言いました。ローレンスの民間被告弁護士ジェームズ・クルプ(James Culp)はこの決定には前例がないと言いました。「デビッドと彼の家族を裁判にさらすことはまったく公正ではありません」。 

 元の犯罪記録はモヘブラ(Mohebullah)と特定される囚人を彼が殺したとして告発されたローレンスに対する事件を概説します。改訂版の犯罪記録は犠牲者を単に「見たところアフガン系の男性」と特定しているだけです。クルプ弁護士はモヘブラは以前に逮捕され、グアンタナモベイに拘留されて釈放されたかも知れないと考えていると言いました。クルプ弁護士は、政府は釈放した囚人がその後、タリバンのメンバーとして再浮上するのは都合が悪いので、陸軍はモヘブラの名前を引っ込めるかも知れないと言いました。フォート・カーソン基地の当局者は、アフガン人の名前が一定ではない性質のために変更されたものの、「ムラー・モヘブラ(Mullah Mohebullah)」は恐らく彼が使った名前の1つだと言いました。国防総省広報官は、彼がグアンタナモベイにいたかどうかはさらに情報がなく不可能だと言いました。

 ローレンスの父親のブレット(Brett)は、彼の息子がフォート・カーソン基地に戻り、2ヶ所の精神病院で時を過ごした後に、兵舎で警護を受けて暮らしていると言いました。ブレットはローレンスが、12月に陸軍の精神科医が彼が統合失調症であると考えなかったために、抗精神病薬を与えるのを止めた後、12月中に自暴自棄になったと言いました。「私は信じられませんでした。私は強いショックを受けました」とブレットは言いました。彼は、彼の弁護士が民間の精神科医を家族の費用で診察するようにお膳立てし、彼は現在投薬を受けています。


 裁判の内容を理解できるかどうかも重要ですが、核心は犯行当時に彼に判断能力があったかどうかです。事件に関連するすべての書類を読まないと分からないものの、陸軍の主張には無理がありそうです。それでも、過去の捕虜虐待に対する批判から、裁判を型通りに行って、無罪ならそれでもよしと、陸軍は考えているのかも知れません。日本の場合と違い、訴追する側は100%有罪を求めません。無罪の可能性が十分にある場合でも、形の上で起訴はすることもあるのです。

 事件前からローレンスの家族は彼が統合失調症であることを知っており、事件後にも弁護士にも相談して医師に診察させています。弁護士は法律の専門家ですが、ホームロイヤーはこうした相談を受けることがありますし、私は日本でも実際にそうした例を聞いたことがあります。こうした事実からして、仮病の可能性は極めて薄くなります。また、それらの事実から、彼がイスラム主義者を極度に憎悪していたという殺意も証明できないでしょう。裁判は行われるものの、無罪判決が出る可能性は非常に高いことになります。

 また、前の記事でクルプ弁護士が言うように、戦友2人の死によるショックは、かつて陸軍が採用したPTSDの基準に合致します。心理的なショックを受けるような事件が2件以上あることがPTSDと診断される基準でした。その後、この基準は緩和され、もっと低度のショックでもPTSDの診断が可能になりました。その古い基準で認められるだけのストレスがあった点も無視できません。もちろん、PTSDだけでは免訴の材料にはなりませんが、統合失調症を悪化させる材料としては理解できることです。



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