ムバラク大統領が退陣

2011.2.12


 昨夜、エジプト情勢は急展開し、ムバラク大統領が辞任しました。中東の国家で、国民が自ら民主主義を選択し、それがエジプトで起きるとは、つい最近まで夢にも思いませんでした。それが現実のものになったのです。

 先に私はエジプト軍が数日中に行動を起こすという見解を示しましたが、実際にその通りだったかどうかは、現在のところは正確には分かりません。メディアはその方向で報じていますが、正確に判断するためには、現在報じられている情報だけでは不足です。

 たとえば、毎日新聞は「大規模デモに象徴される国民の激しい怒りの増大を背景に、国政での影響力を拡大しつつある軍部の判断が強く働いた結果と言えそうだ。」と書いていますが、それを証明する具体的な事実は示していません。毎日新聞の別の記事では「事前情報と実際の演説の差はなぜ生じたのか。ムバラク大統領は『象徴』(元軍中堅幹部)的な存在になっているとみられるため、軍側の事情が反映されている可能性がある。評議会で議長を務め、ムバラク氏に近いとされるタンタウィ国防相と、軍の実際の運営を担当するアナン参謀総長とのスタンスの違いを指摘する軍事専門家もいる。」といった情報も背景を知るためには意味がありますが、これだけでは判断ができません。

 ワシントン・ポストはそれをある程度裏づける情報を報じています。記事によれば、特殊な事情の時だけ開かれるエジプトの軍最高評議会が木曜日に開かれ、そこで指揮官たちはムバラクに退陣を提案しました。この会議はその制度の歴史において3回目です。ムバラク大統領は軍幹部の彼を辞めさせようとする努力に抵抗するように見えました。そして、辞任を否定するテレビ演説が行われたと記事は書いています。この記事からすると、テレビ演説の後で、エジプト軍幹部がムバラク大統領を説得するか脅すかして、退陣させたと想像できます。しかし、結論づけるにはもっと詳細な情報が必要です。

 ワシントン・ポストは、エジプト軍が今後どんな役割を果たすのかは不明確だと書いています。記事によると、エジプト軍は公正な選挙を出来るだけ早くに行うと言い、何十年も政府の批判を押さえるために使われてきた非常事態法は撤廃すると約束しました。エジプト国民はこの軍の決定を支持しています。

 記事はこんな感動的な場面を書いています。大学教授のハッサン・アブ・バクア(Hassan Abu Baqr)は、ムバラク大統領が出発したというニュースを聞いた後で、タハリール広場の入り口の1つを守る兵士に近づいた時、涙を流しました。「軍隊は我々の兄弟です」「人々が反乱を起こして、軍隊が彼らを撃たない国が第三世界にどれだけあるでしょう?」と彼は言いました。



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