対テロ戦で特殊部隊が疲弊

2011.2.10


 military.comによると、米軍の特殊部隊はイラクとアフガニスタンの戦争で酷使され、疲弊しています。

 エリック・T・オルソン海軍大将(Adm. Eric T. Olson)は、過去9年間で特殊作戦部隊は約60,000人へ倍増したものの、海外へ派遣された者の総数は4倍になりました。約6,500人の特殊作戦要員がアフガンに、約3,500人がイラクにいるものの、これらの数は部隊が戦域を出入りするのと共に変化します。

 オルソン大将は、アフガンでの特殊部隊の必要は飽くことを知らず、兵士をとんでもない率で戦地に派遣させていると言います。また、彼は数年間、必要は減少しないと考えています。

 実例として、約47,000人をそこに残して100,000人の通常の部隊がイラクを撤退するものの、撤退の一部である特殊作戦要員は500人あまりで、それらはそこにいる精鋭部隊の一部に過ぎないと、彼は指摘しました。

 「同じ規模ではありませんが、残りの部隊と同じく、我々は指標を見ていました。任務上のプレッシャーと任務外のプレッシャーです」とオルソン大将はワシントンでの会見で言いました。彼の特殊作戦部隊の規模が増大したにも関わらず、彼らはより多くのことをするよう求められ、「そこで我々は率直に言えば、我々が対処していることに少し疲弊し始めたのです」。

 全体で約12,000人の特殊作戦部隊が派遣され、その内でイラクとアフガンにいない者たちはイエメンのような世界中の他の場所にまき散らされました。

 オルソン大将はしわ寄せの兆候は、より多くの中級の戦力が今年、過去の年よりも多く職を去ったことです。彼の部隊の約60%は9月11日の攻撃の直後に軍に参加し、過去8〜9年間に大きな事を成し遂げる一翼を担った、と彼は言いました。「しかし、8〜10年間ならよいと思えたものは、18〜20年間先のことを考えるとよく思えないのかも知れない」とオルソン大将は言いました。

 部隊と彼らの家族は回復力を証明したものの、指揮官たちは今、新たに生起する疲弊に対処する方法をとろうとしていると、彼は言いました。

 当局者は訓練を増やし、より戦地派遣を予測しやすくして、予期しないシフトを減らすようにスケジュールにこだわっていると、彼は言いました。

 加えて、彼は、彼らが家族を、部隊が何をして、彼らが何を期待できるかについて教育するために作業しています。特殊作戦軍は傷病兵のための計画のためにより多くの資源を注ぎ込んでいると、彼は言いました。

 課題は、次の20〜30年間にわたってアメリカが高度な特殊作戦部隊を持つために、中級の部隊の損失を食い止めることです、とオルソン大将は言いました。


 もともと、イラク侵攻は特殊部隊を中心とした55,000人で行うという計画でした。ドナルド・ラムズフェルド国防長官が検討させた作戦でした。しかし、陸軍はその作戦に反対し、56万人以上の大規模な陸軍部隊を送り込むべきだと主張しました。結局、ブッシュ大統領は折衷案を採用し、十数万人でイラクに攻め込みました。米軍は首都を占領するのには成功したものの、武装勢力のテロ攻撃を防げなかったのは、すでに歴史的な事実となっています。もし、この作戦が実施されていたら、現在、米軍の特殊作戦部隊の疲弊はもっと酷いものになっていたでしょう。

 このように、どういう軍事作戦が有効なのかを、それを実行する前に正確に見抜き、正しく判断をくだすことが重要なのです。「やってみないと分からない」といった、曖昧な理由に頼るべきではありません。もし、勝算がないと考えられたら、その作戦は間違ってもやってはいけないのです。

 おそらく機密にあたるので、オルソン大将は詳述していませんが、イエメンなどに展開している特殊部隊の数がかなりの規模にのぼっている可能性があります。何でも秘密の特殊部隊の活動を詳しく知ることはできないので、具体的にどれだけの負荷が問題となっているのかは分かりません。こうした問題は世論を背景に解決することはできないので、特殊作戦部隊自身が解決する必要があります。オルソン大将もそれを期待して話しているのではなく、そろそろ対テロ戦は限界だという事実を周知させようとしているのでしょう。これはオバマ大統領の狙いに合致しています。増派を認めた上でアフガンからも撤退するという渠の戦略は軍事的にも経済的にも正しいものです。経済政策で米国民が不満を感じているというのと裏腹に、アメリカの株価は右肩上がりで上昇し続けています。

 何度でも繰り返して書いておくべきでしょうが、こうしたブッシュ・ドクトリンの問題点は2003年以降、ずっと指摘され続けてきたことです。私も問題点を指摘し続けてきました。ある意味では、ブッシュ大統領はアメリカにとって最悪のテロリストだったのです。彼は米軍を崩壊させる戦略を承認しました。それがうまく行かないことが分かると、「部下が私に正しい報告をしなかった」と自己正当化をやりました。部下が常に文句のつけようがない報告をしてくれて、それを承認するだけなら、大統領は誰だってできるのです。自分の視点を持っているという点で、ブッシュ大統領とオバマ大統領には雲泥の差があります。



Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.