神の抵抗軍はアメリカの脅威ではない

2011.10.17


 military.comが「分析 なぜ米軍はアフリカの武装勢力を攻撃するか?(Analysis: Why Set US Troops on Africa Militants?)」という論説を報じています。既知の情報の繰り返しも多いのですが、記事から興味深い部分を抽出します。

 神の抵抗軍(the Lord's Resistance Army: LRA)はアメリカに対して脅威をもたらさず、昨年「the Enough Project」の報告書は、教祖のコニーはもはや各LRA部隊を完全に、直接に指揮統制していないと言いました。

 「The Long War Journal」の編集者、ビル・ロッギオ(Bill Roggio)は、特に、オバマ大統領がそう言ったにも関わらず、LRAはアメリカに対する国家安全保障上の脅威を示していないため、オバマ政権が部隊を派遣した論理的根拠を謎だと呼びました。「特にイラクとアフガニスタンの紛争から離れたいという政権の願望を考えると、この派遣のタイミングは奇妙です」。


 一昨日は時間がなくて詳しく書けませんでした。この記事にからめて、もう一度考えを整理してみます。

 この記事の主旨には納得できます。LRAはアメリカの脅威ではないのに、オバマ大統領は「アメリカの安全保障上の利益と外交政策を進める」と言いました。しかし、LRAがアメリカを攻撃する必要性や能力はありません。

 神の抵抗軍はかつてキリスト教軍と名乗ったこともあって、イスラム教徒は無関係です。アルカイダと関係しているとも考えにくく、問題は人道に反する行為を繰り返し、国際援助団体などから危険視されてきたことです。そこで、こうした組織と戦うことで、イラクやアフガンでの問題の多い行為の埋め合わせをするチャンスが生まれます。人道上の危機を解決すれば、多方面からの称賛が期待できるからです。

 ロッギオ氏が指摘しているように、イラクとアフガンからの撤退を主張したオバマ政権にとって、代替的な敵がいることは都合がよいという問題もあります。そうした敵を攻撃することで、テロ対策をとっている姿勢を米国民に示せるからです。イラクとアフガンから早急に抜け出さなければならない理由も「他の戦うべき場所へ資源を集中するため」という形で示せます。

 うまく行かない現状から目を背けるには、アフリカの国内紛争への軍事介入は飛びつきやすいテーマです。人道支援のためという大義名分には誰も逆らいがたいからです。

 アフリカに目を向けることの最悪の結果は、これが新しい別の戦いになることです。顧問を務める国の軍隊の能力が惹く、米軍が直接介入する事態になったり、彼らと確執が生まれて軍事顧問が殺害されるようなイラクやアフガンで起きた事態が起きる可能性が考えられます。こうして、アフリカ派遣はアルカイダを殲滅するという当初の目的を見失い、別の敵との新しい戦線を開くだけに終わる危険があります。

 往々にして、人は本来やらなければいけないことではなく、やらなくてもよいことに熱中するものです。2003年のイラク侵攻が好例で、まったく意味のない軍事作戦にアメリカ中が期待し、それはアフガン侵攻でヨーロッパにも拡散しました。

 開戦の理由が何であれ、冷酷にも、勝利への計算式を解いてから戦いを始めた者にしか勝利は訪れません。軍事的な能力だけでなく、経済面、政治面での影響を検討し尽くさなければならないのです。オバマ政権がそうした計算をすませているのかどうかは不明です。私がいま一番知りたいのは、この部分なのです。



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