米陸軍と海兵隊で自殺が減少

2011.1.8


 今日は米軍人の自殺に関する記事が2つあります。まず、military.comによれば、ジョージ・W・ケイシー・Jr.陸軍参謀総長(Army Chief of Staff Gen. George W. Casey Jr.)は軍隊での自殺が減速したと言いました。

 「(2010年の)年末に自殺率を見たとき、それは2004年以来、現役兵の自殺率が減速したことを示していました」「それは間違いなく想像力を膨らませた考えではなく、我々がこれに対して行ってきた莫大な努力すべてのお陰であり、我々は現役兵の自殺率の鈍化を見始めているのです。これは好事です」と、ケイシー参謀総長はアーリントンの米陸軍協会(the Association of the U.S. Army)が行った朝食会で言いました。

 陸軍の自殺率は2004年以降毎年上昇しました。陸軍は最終的な数字を発表していませんが、2010年11月までに144件の確認済みの自殺がありました(陸軍は11月に確認済みの自殺はないと言いましたが、11件の自殺の可能性のある死亡を調査中です。軍は10月にも同様の死亡を調査しています)。2009年の自殺者の総計は162人だったので、昨年の調査中の18件の死亡が自殺に変わるとしても、年間の総計は2009年の総計を超えないと陸軍当局は指摘します。陸軍広報官は年末の数字は来週公表されると言いました。

 ケイシー参謀総長の希望的な結論は、陸軍がフォート・フッド基地で2010年中に前年の2倍にあたる22件の自殺があったと報告した後にありました。同じ時、フォート・キャンベル基地は2010年11月までに12人の自殺を報告しました。この基地は前年に21人の自殺を報告しました。2010年1月から11月まで、144人中26人の自殺が戦域で起こりました。この数字は全体の20%未満で、162人中30人の確認済みの自殺が戦域で起きた2009年の総数と大体同じ割合です。年間総数に対する割合と同じく、戦域での自殺は十年間の半ば以降下落しました。

 軍隊での大きなストレスは頻繁な戦地派遣で、一部の専門家は高い自殺率の原因だと主張しました。ケイシー参謀総長は10月までに陸軍は同時多発テロ以前のローテーション(1年間の派遣後に2年間の帰国)に戻れると言いました。予備役兵のいわゆる「滞在時間(dwell time)」は1年間の派遣後に3年間の帰国になるでしょう。

 military.comによれば、海兵隊が公表した予備的な数字によれば、海兵隊員の自殺数は、前年に記録的な高さに達した後で2010年に劇的に下落しました。

 アフガニスタンで戦いを主導する海兵隊は、数字を追跡し始めて以来52人という最高記録に達した2006〜2009年に倍増したあとで、軍隊の中で最大の自殺率になりました。昨年、自殺者は37人に下落し、2009年から29%減少したと海兵隊自殺防止プログラム(the Marine Corps Suicide Prevention Program)を運営する、アンドリュ−・マーチン少佐(Lt. Cmdr. Andrew Martin)は言いました。この数字は軍の指揮官により確認されなければなりませんが、初期の数字は通常、3月に公表される最終的な数字とほぼ同じです。マーチン少佐はこの低下の正確な原因を指摘することは難しいものの、自殺防止の努力が強靱性と自力本願が長年重んじられた部隊の兵士の考え方を変えたように見えると言いました。「我々はなぜ下落が起きたのかはよく分かりません」「我々は海兵隊員のメンタルフィットネス、助力の要請に対する態度が変わりはじめたことを知っており、それが下落に関係しているかも知れません」。

 2009年の164人に比べると2010年は173人で、自殺未遂の数は依然として上昇しています。この増加について、マーチン少佐は事件を積極的に記録したためかも知れないと言いました。2008年に海兵隊員は最高指揮官がしばしば問題について積極的に話し、援助を求めることを隠さないように公に奨励しました。海兵隊の最小の部隊も、海兵隊員に同僚と話をし、トラブルの兆候を見つける訓練をするプログラムを含む自殺防止運動を実行しました。別の運動は、兵士に最も近い上官である下士官に集中した自殺防止を行いました。ソーシャルワーカー、心理学者、精神分析医を含むメンタルヘルスの専門家が、海兵隊員と衛生兵として海兵部隊と共に活動する海軍隊員を治療するために18ヶ所の海軍病院に加えられました。今年、海兵隊は自殺防止の訓練を、中堅下士官と上級下士官に集中し、より上位の階級で実施します。「我々は37人の自殺者で満足していません」「我々はこの下落を嬉しく思いますが、37人の死を得たことに肯定的なことはありません。我々は正しい方向に向かっていますが、もっと沢山働きます」とマーチン少佐は言いました。


 ケイシー参謀総長は少し喜びすぎだと思います。マーチン少佐も含め、軍の努力が自殺を減らしたと考える軍部の考え方は一元的すぎると思われます。私はむしろ、イラクとアフガンからの撤退が明確になったので、兵士たちが「終わらない戦い」から解放されたことも要因にあげたいと思います。まだ戦争は終わっていないものの、まもなく戦地派遣がなくなると考えられれば、人生に希望が湧くというものです。しかし、これを直接的な表現で問題を担当する軍人が述べることはないでしょう。自己矛盾になりかねないからです。

 それから、マーチン少佐が海兵隊員が助力を求めたがらないと言うのは、海兵隊は自力で何でもやることを重んじる伝統を持っていることを指しています。それが逆に心理的トラブルを発見するのを遅らせ、自殺という最悪の結果を招いているということを海兵隊自身が認識したのです。

 戦闘で被るストレスは一般社会でのそれとは異なります。下の本は軍人や警官などの法執行官が戦いによって受けるストレスについて論じています。苦痛を心の中に押し込める寡黙なガンマンは心理的ストレスに陥りやすいことがよく分かる内容です。

 兵士も人間であり、愛国心だけですべての問題を克服できるものではありません。すべての人がこうした問題に関心を持ち、戦争という問題をさらに解剖し、この問題を積極的に論じて欲しいと私は考えています。

 細かいことですが、海兵隊の医療は海軍が担当しています。マーチン少佐の階級が「Lt. Cmdr.」と書かれていますが、これは海軍の階級です。海兵隊の少佐は「Major」で、基本的には陸軍の階級に準拠しています。記事中に、衛生兵が海軍の隊員であると書かれているのも、そのためです。この辺の事情を知っていると、ニュースを読むときに困りません。



Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.