韓国が国防白書を刊行

2011.1.1


 military.comが韓国の国防白書について報じました。書かれていることは国内で報じられていることとほとんど同じですが、興味深い記述もあります。

 国防白書には、北朝鮮の新型の戦車や200,000人の特殊部隊、2008年の国防白書(韓国の国防白書は2年に1度発行)の「直接の深刻な脅威」よりも強い「敵」との表現が用いられたことなどが書かれています。また、北朝鮮が韓国のハイテクの通常兵器の軍隊に拮抗させるために、核開発計画、特殊部隊、長射程砲、潜水艦とサイバー戦部隊に頼っているとしています。

 特殊部隊は2008年に180,000人とされたのが200,000人に増え、暗殺や韓国の主要な施設への侵入と破壊を目標としています。長射程砲は約13,600門の長射程砲を非武装地帯に沿って配備し、ソウルや近隣の地域に砲撃による奇襲を行う準備をしています。ソウルは境界線から30マイル(50km)しかありません。旧型よりも強力な火力と機動性を持つ新型の戦車を境界線に沿って配備しています。国防白書は、金正日が韓国よりも強力な軍事力を作り上げることを最優先とし、その軍隊は韓国軍への深刻な脅威をもたらしていると書いています。

 それでも、アナリストたちは北朝鮮が28,500人の米軍がいる韓国に全面戦争を仕掛けるのは僅かな可能性しかないと言います。アメリカは繰り返し、韓国を核の傘で守ると約束してきました。国防白書はアメリカが朝鮮半島での有事に690,000人の軍隊、160隻の艦艇、2,000機の軍用機を派遣することを再確認しています。韓国軍は650,000人、北朝鮮軍は120万人の軍隊を持ちます。

 両国は1950〜53年の朝鮮戦争の和平条約のない休戦のために依然として戦争状態にあります。中国外務省の姜瑜報道官(Jiang Yu)は木曜日に、「朝鮮半島に関係する問題を解決する唯一の正しいアプローチ」として、北京は6ヶ国協議の再開を支持すると言いました。北朝鮮の核開発計画に関する協議は南北朝鮮、アメリカ、中国、日本、ロシアが関与していますが、2年間近く中断しています。

 また、military.comによれば、北朝鮮は韓国の実弾射撃演習への対応のために空軍の訓練飛行とその他の軍事演習を強化しています。

 今月の空軍の演習は、2009年の12月の回数と比較して150%増加していると東亜日報は報じました。ある情報源は少なくともミグ戦闘機1機が墜落したと言いました。韓国軍事筋は「北朝鮮が延坪島への攻撃の後で非常に緊迫していることを示しています」と言いました。


 長射程砲でも50kmという射程は遠すぎ、その着弾はかなり拡散すると考えられます。50〜60kmの射程を持つ170mm自走砲(カノン砲)でも、最も近い場所から砲撃しても、ガスの力で抵抗を減らすベースブリード弾やロケット噴射を活用するロケットアシスト弾のような射程を伸ばす特殊な長射程弾を使わないとソウル全体を攻撃できません。こうした砲弾を北朝鮮がどれだけ所持しているかが問題です。多連装ロケットは射程が35kmといわれ、もっと近くしか攻撃できません。もっと南を攻撃したければ、非武装地帯から南進するしかありません。南進するにも大河が行く手を阻み、韓米合同軍から見られながら河を渡ることになります。到底、重砲を持って渡れるとは考えられません。つまり、北朝鮮の南進には、射程の長い大量の弾道ミサイルが不可欠です。延坪島砲撃事件では多連装ロケット砲しか使われず、北朝鮮沿岸の自走砲の砲座には最近、使用された形跡がないことが分かりました。警戒度の強い黄海5島に近接する地域の部隊がこの状態だということは、北朝鮮軍の状況に何かの問題があることを示唆さます。

 多すぎる特殊部隊は単なる軽歩兵の部隊が多いだけと思われます。歩兵戦闘を強化した訓練が中心で、多くの技能を持つ先進国の特殊部隊とは比較できないでしょう。ゲリラ戦用の訓練を追加した歩兵の部隊と思っていればよいのです。

 年間15時間といわれる北朝鮮空軍の演習を150%増やしたところで、2時間にも足りません。航空自衛隊の訓練時間は年間145時間といわれ、月間では12時間程度です。これだけ差があると、さすがにかなりの実力差が出るはずです。訓練時間を増やしたまま、どれだけ継続できるかが問題ですが、いずれ元のペースに戻るだろうと思います。北朝鮮はこうやって燃料を節約しないと、戦時用の燃料を蓄積できないのです。有事においても、どれだけの航空機を運用できるのかは甚だ疑問です。

 北朝鮮はバランスを欠いた軍隊を保持し、国の経済は破綻しています。いつまでこの状態を続けられるのかが問題です。とうの昔に、その限界は超えているのですが、北朝鮮はまだ倒れません。その実態は本当に謎です。



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