「オバマの戦争」は政権に有利?

2010.9.24

 military.comによれば、ホワイトハウスは、ボブ・ウッドワードの「オバマの戦争」で受けたダメージを最小限にしようとしています。

 ホワイトハウスのロバート・ギブズ広報官(Robert Gibbs)は、「私は国民がこの本を読むのを望みます。それは我が国の国益です。1分前に私が言ったように、それは入り口があるのなら出口があることを保証しています」と述べました。本の抜粋は、オバマ大統領が就任直後に戦争終結を模索して国防総省に苛立ったことを示唆しています。ウッドワードは、オバマ政権に米国内での潜在的なテロ攻撃の予告が殺到し、CIAがアフガニスタンで、タリバン戦士を殺すための影の軍隊を設立したことを明らかにしています。高官は、本がオバマ大統領が鋭く、強い指導者であるように描写したと言います。「大統領はこの本で…我々の国家安全と大統領としての役割に広範で洞察力のある考えを持つ、分析的で、戦略的で、決断力のある最高指揮官として理解される」と高官は語りました。「それは彼の強い指導力とアフガンにおける正しい戦略の模索への彼の関わりに光をあてる」。

 本はオバマ大統領の20ヶ月間に対する国民投票である中間選挙の6週間前に出版されました。ウッドワードは、オバマ大統領が断固としてアメリカの国家建設の努力を長引かせることを拒絶し、この線で米国民にシグナルを送ることを決め、アフガンに30,000人の増派すらしたと書いています。ウッドワードは、大統領が2009年10月後半の会議で、ロバート・ゲーツ国防長官とヒラリー・クリントン国務長官に、「私は10年間もやる気はない」と述べたと書いています。オバマ大統領が11月に増派を発表したとき、彼は米軍が2011年7月に帰国を始めることを明らかにして、この期限はかつてない激しい公の議論を巻き起こしました。

 本は、ホワイトハウスの国家安全保障チーム内部が、アフガン戦争のあらゆる面を討議したので、その亀裂、疑念、内紛を明らかにしているようにみえます。大統領は国防総省の40,000人の要請を却下したとウッドワードは言い、11月の大統領の発表に先立つゲーツ長官とクリントン長官との会議を時期に沿って記述しました。ニューヨークタイムズ紙は、冷静で有名なオバマ大統領が、決断を下すためのプレッシャーで、あるときに落ち着きを失ったと報じています。タイムズ紙は「私はこうすると決めたんだ!」とある時点で爆発したと報じました。


 記事には前回にも書いたことと重複することも含まれるので、それらは省略しました。

 早くこの本を読みたいものです。日経新聞社のサイトを見ると、少なくとも10月までの出版予定にはないようです。もちろん、他の出版社から出る可能性もあります。原書を読むしかないかも知れません。

 ウッドワード氏の「ブッシュの戦争」を読んだとき、当時、国務長官だったコリン・パウエルがブッシュが父親と違うと感じた部分に興味を持ちました。湾岸戦争を戦った彼の父は、部下に細かな報告を求めましたが、ブッシュは任せっぱなしにしました。パウエルはそれをやり方の違いと感じたようですが、私はブッシュの無能さを示していると感じました。何も分からないから、部下にすべて任せて、自分は大統領らしい顔をして格好だけつけるのです。しかし、「オバマの戦争」はかなり内容が違うようです。アフガン戦略を決定するまでの経緯は、ぜひとも読んでおきたいものです。

 アフガン戦略を決める際、オバマ大統領は出口戦略を米軍に求め、米軍がそれに答えられず、大統領は4万人増派を却下したという報道があります。本を読んでいないので、想像に過ぎないのですが、米軍の幹部は、自らの文化の中に埋没し、戦争で広がった自分たちの権限を狭めるような決断ができなかったのではなでしょうか。軍隊の文化というものは、上官と部下の関係でできあがっています。任務から発生する利益を軽視すれば、上官は部下に疎まれます。国家のための仕事なのに、それが自分のための仕事のようになってしまうのです。つまり、自国民をテロから守るための戦争ではなく、自分の組織のための戦争になってしまうのです。また、軍人は「成せば成る」式の発想をしがちで、撤退は念頭にありません。特に、負けた形での撤退は考えられません。軍人にとっては、出口戦略を行う時には、勝った形が見えていなければなりません。しかし、どう考えても、そんな形にはできそうにありません。結局、出口戦略をホワイトハウスに提出することはできなかったのです。

 その後も、スタンリー・マクリスタル大将は、軍隊文化にどっぷりと浸かった発想から脱出できず、まるで学生気分の失言をスクープされて退役する羽目になりました。この期に及んで、米軍の幹部には危機感が感じられません。太平洋戦争について昭和天皇が側近の上奏から「死に物狂いの戦い」になると判断したように、この戦争は死に物狂いの覚悟でなければ、戦い抜けません。自分の懐の暖かさを考える余裕はないのです。時としては、自分の部署の権限を制限されるようなことも我慢しなければなりません。すべては勝利にのみ向けられるべきで、自己の権益は忘れるべきなのです。平時の軍隊生活の感覚で戦おうとするなら、発展途上国の土着軍「タリバン」にすら勝てないでしょう。

 オバマ大統領が、軍人の性質を見越した上で、この指示を出し、自分が望む形になるように仕向けたのかは不明です。以前から、私はオバマ大統領はアフガン戦で勝てるとは思っておらず、アフガンからの撤退後が正念場だと考えていると書いてきました。それが正しいのかは、おそらく、この本を読めば分かるはずです。



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