焚書に各方面から批判の声

2010.9.10

 小さな教会が考えた、同時多発テロの記念日にコーランを焼き捨てるという「焚書」イベントに対して、各方面から反対の声があがっています。

 まず、ロバート・ゲーツ国防長官が、イベントが兵士を危険にさらすというデビッド・ペトラエス大将のコメントを支持すると表明しました(記事はこちら)。しかし、国防総省や米軍の高官は、ドーブ世界奉仕センターに連絡をコンタクトはしていません。

 ウェストバロ・バプテスト教会(the Westboro Baptist Church)の指導者シャーリー・フェルプス・ローパー(Shirley Phelps-Roper)も、このイベントに立腹しています(記事はこちら)。

 しかし、彼女の意見は米政府から出ているものとは違います。2008年に、彼女は父のトピーカ(Topeka)と共に、ゲイに反対するために、ワシントン市の目につく場所でコーランに火をつけようとしたのに、誰も気にしなかったことに怒っているのです。

 こんなのは、私にはくだらない嫉妬に思えます。この記事で面白いのは、コーランに火をつける行為も、合衆国憲法で保証された権利だということが説明されている点です。政府がコメントを出しながらも、ドーブ世界奉仕センターにイベントの中止を命令できないのは、このためです。

 ミズーリ大学カンザスシティー校(the University of Missouri-Kansas City)の法学教授ダグラス・リンデル(Douglas Linder)は「多くの人々は修正条項第1条が、なぜこの牧師を保護するのかを不思議に思うかも知れません」と言います。「修正条項第1条は人々が嫌う言葉を保護するためにあります。あなたは人気のある言葉を保護するのに憲法の条項を必要としません」「修正条項第1条は、象徴的な言葉としての旗を焼くことすら保護すると、最高裁は定めています」「政府は、非合法的な活動や差し迫った暴力を扇動する活動や言葉を妨害できます。もし、テリー・ジョーンズの信徒がコーランを燃やすためにイスラムのコミュニティの中に行進すれば、それを適用できるかも知れません」。

 連邦政府の長であるオバマ大統領も、このイベントが中止されればよいと考えています(記事はこちら)。

 ABCテレビの「Good Morning America」のインタビューで、「彼が聞いていれば、私は彼がするつもりのことはアメリカ人としての我々の価値観と完全に反対だということを理解するのを望みます」と言いました。

 「この国は自由と宗教的な寛容の概念の上に建設されたのです」「そして、非常に現実的な問題として、私は彼に、この人目を惹く馬鹿げた行為(stunt)が、軍務につく若い男女を大いに危険にさらすと理解するのを望むのみです」「これはアルカイダにとっては新兵募集の大成功です。パキスタンやアフガニスタンのような場所で深刻な暴力を起こし得るのです」。オバマ大統領は、ジョーンズの計画が実行されるなら、それはテロリスト志願の個人が誰かを殺す方向に自身を憤激させる刺激として用いられると言いました。「私は、彼がよりよい天使の話を聞いて、これが彼が関わっている破壊的な行為だということを理解するのを望みます」。


 合衆国憲法修正条項第1条は以下のとおりです。

修正第一条 連邦議会は、国教を樹立し、あるいは信教上の自由な行為を禁止する法律、または言論あるいは出版の自由を制限し、または人民が平穏に集会し、また苦痛の救済を求めるため政府に請願する権利を侵す法律を制定してはならない。

 この条文のために、コーランを焼くイベントを連邦政府が禁止することはできないのです。

 でも、地元自治体の消防法がどうなっているかが気になります。先日の記事によれば、ドーブ世界奉仕センターは「焚き火」をする許可を取れていないようです。もし、自治体の法律に反して焚き火を実行するのであれば、それは「表現の自由」の問題ではなく、「人為的な火災の危険」という問題になります。このまま強行すると、ドーブ世界奉仕センターは自治体によってイベントを中止させられるかも知れません。リンデル教授が言うように、同教会が危険な行為に及ぶ前に、イベントは阻止される可能性が残されていると思えるのです。

 以上を書いてから、military.comを見たら、テリー・ジョーンズ牧師がイベントを中止したという記事が掲載されていました(記事はこちら)。なんとゲーツ国防長官が直接ジョーンズ牧師に電話して説得したようです。これで一安心です。



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