ゲーツ長官が統合戦力軍の廃止を計画

2010.8.10

 military.comによれば、ロバート・ゲーツ国防長官(Defense Secretary Robert Gates)は、厳しい財政状況によりバージニア州ノーフォーク周辺にあり、約5,000人を擁する統合戦力軍(Joint Forces Command)を廃止する必要があると述べました。

 これは5年間で1,000億ドルを節約するゲーツ長官の最初のステップです。国防総省は長期間の戦争で損なわれた軍隊を修復し、次の戦いの準備をするために予算を必要としています。すでに、地元の議員から素早い抵抗が出ていますが、ゲーツ長官は議会の意向には楽観的で、統合戦力軍を廃止して資金ができれば、バージニア州は造船を増やして職を作れると言います。

 ゲーツ長官は、戦争予算を含む7,000億ドルの年間予算を意のままにする国防総省全体の非効率性の追求を始めると言います。それは軍の保健医療費を含めて、聖域を設けずに行われます。現在、統合戦力軍の廃止の他に、次の事柄が予定されています。

  • 国防総省を支援する請負業者のための予算を10%削減
  • 3年間、長官のオフィス、防衛当局、部隊で働く雇用者の人数を凍結
  • 2年間、最低50人の将官と150人の上級民間人幹部の地位を削減

 ブッシュ政権が始めた「テロとの戦い」は、当初から、限界にぶつかって、何かを放棄することになるという指摘がなされていました。低レベルの戦闘であっても、長期間、外国に派遣を続ければ、アメリカの財政でも支えきれないほどの資金を食いつぶすわけです。こうした問題の全体を管理している人は実質的にはいません。

 国防総省は予算を取るのが仕事です。政府から戦争をせよと命令されれば、必要なもののリストを作り出し、政府に「これだけ必要です」と渡します。普通、初年度は特別会計から費用を出し、翌年からは議会の承認を受けて通常会計から戦費を出します。ブッシュ政権は何年も特別会計から戦費を出すという無茶をやりましたが、現在は通常会計から戦費を支出しています。議会は有権者である国民を意識するので、出生した兵士を心配する支持者を安心させるためにも、国防総省の要求に応じ勝ちです。その結果、戦費は湯水のように使われます。戦争に歯止めをかけにくいのは、こうした社会構造にあります。で、2003年にすでに指摘されていた問題を、今になって後始末をやっているわけです。形式上は政治家が管理しているはずの軍隊の予算も、実は直接管理している人はいないのです。ビジネスの場合と違い、軍隊は予算の効率を厳しく管理しません。普段使っている武器のすべてが性能重視で、経済性を度外視しているため、そういう感覚を持っていないのです。これは民主国家における、構造的な欠陥だと言えます。国民が賢明になり、こういう問題に積極的に関与しないと、意味のない戦争が繰り返されることになります。

 日本も、こういう事態を笑っている場合ではありません。イラクに自衛隊を派遣したため、日本はアルカイダの標的となり、遂に石油タンカーが直接狙われることになりました。イラク派遣にかけた費用や努力が何の意味もなかったことについて、日本社会は顧みようともしません。この無反省ぶりが、次の戦争を生むのです。

 無益な戦争によって予算に限界が生じ、通常の予算にもしわ寄せが行き、部隊の削減が必要になったわけですから、その負担の程度が分かります。しかも、ゲーツ長官は軍人の健康保険予算も視野に入れています。イラクとアフガニスタンからの撤退による戦費の削減も含め、米軍はその立て直しを進めていくことになります。

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