アルストン報告書:ニュースリリース全訳

2010.6.5

 フィリップ・アルストン氏の報告書に関するニュースリリースの全訳を掲載します。(pdfファイルはこちら

ニュースリリース
2010年6月2日

国連の専門家が「違法な」目標を絞った殺害政策を批判、アメリカにCIAの無人機による殺害の停止を要請

 ジュネーブ発 「目標を絞った殺害は、それが国際法の関連する規則に違反する環境において使用されるために、国際法に対して急速に増大する難題をもたらしています」と、法定外の処刑に関する国連の特別報告者フリィップ・アルストンは水曜日に警告し、国連人権理事会に目標を絞った殺害がもたらす法律問題に関する報告書を提出しました。

 「結論は、今日設定されている規則が将来の多くの国家の行為を抑制するだろうということです」とアルストン氏は言いました。「国際社会は説明責任を要求することに、もっと力を入れる必要があります」。

 「目標を絞った殺害を最も利用しているのは、主に無人機を攻撃に用いているアメリカです」と、独立した専門家は「約40ヶ国がすでに無人機の技術を所有しており、一部はすでにそれらからミサイルを発射する能力を持っているか、模索しているところです」と指摘しました。

 「私は特に、アメリカがそれ自身が世界中で個人を目標にする資格を絶えず拡大するのを主張するとき、この事実に気がついていないことを懸念します。しかし、この強く主張されながらも不透明な説明責任のない殺害のラインセンスは、アメリカやその他の国家が生存権と法定外での処刑を避ける規則への重大なダメージなしに得られる資格ではありません。

合法性と説明責任

 この報告書は2つの主要な問題を確認します。合法とされる目標を絞った殺害に極端に幅のある状況があること。それらが使われた状況に関する基本的な説明責任のメカニズムの欠如。

 「最初の問題では、目標を絞った殺害が、実際には合法であり得るという状況があります。目標を絞った殺害は、武力紛争の状況では戦闘員または戦士、戦闘のような活動に直接参加している民間人に対して用いる時に認められています」。アルストン氏は指摘します。「しかし、それらはどの戦闘地域からも遠く離れて使用されることが増えています」。

 国連の特別報告者によれば、アメリカは特に、アルカイダ、タリバンと「関連する武装組織」(後ろのグループは流動的で定義されていませんが)に対する武力闘争を前提にした自己防衛を行う生得権の一端として、他国の領域における合法的な武力行使を可能にする「9/11の原則」があるという新手の論理を提示してきました。

 「この広範で際限のない自衛権の解釈は国連憲章に含まれる武力行使の禁止を破壊するのに役に立ちます。テロリストとさえる人たちを追求したり、彼らを攻撃することにおいて、もし他の国が発動するなら、カオスを生むでしょう」と彼は言いました。

 アルストン氏は「テロリズムによって引き起こされた難問の重要性をまったく疑いません。私は、民間人に対する攻撃の危険を彼らの中に隠れることで増しているあらゆるグループと同様に、罪のない民間人を殺すアルカイダとその他のグループの行動を非難します。こうした行動は明確に国際法に違反します。しかし、こうした敵がルールに従わないという事実は、政府がこうしたルールを放棄できたり、一方的に解釈し直せるということではありません。法の規則を守るために戦っているというどの政府の主張の信憑性も、どのように法律を解釈し適用したかを情報開示する意思、法律が破られたときに取る行動に依存しています。」と強調しました。

 2番目の問題は、説明責任です。アルストン氏は「それは目標を絞った殺害を用いる国家が、武力紛争の状況において、それらの用法を規制する様々なルールに適合していることを証明するという国際法の基本的な必要条件です」と述べました。

 今日主要な最も明らかな難題は、独立した専門家によれば、目標を絞った殺害を無人航空機から実行する米中央情報局が運用する計画から来ています。「大勢の人たちが殺されたのは明らかで、この数は一定の罪のない民間人を含んでいます。この計画は公式に機密の中に覆われたままなので、国際社会はいつどこでCIAが殺害を承認したかを知ることはなく、殺されたかも知れない個人の特徴、殺害の合法性をどう確保したか、民間人が誤って殺害されたとき何を追跡調査したかを知ることはありません」。

 国連の特別報告者は「誰が殺害されたかについて情報開示のない状況において、何がその理由か、罪のない民間人が死んだかどうか、国際的な説明責任の法律原理は、当然、徹底的に違反しています」と述べました。

 アルストン氏は「最も容易な対比は米国防総省の確立された慣習です。決して完璧ではないものの、今週早くにアフガニスタン、ウルズガン州で、少なくとも23人の民間人が、無人偵察機のオペレーターからの間違った情報に基づいて殺害されたことを論証したように、米軍は比較的、公的な説明責任のプロセスを持っています。彼ら自身の給与支払者を除けば、説明できないままに決められた情報局は、他国で人を殺害する計画を実行するのに相応しくありません」と指摘しました。

 アルストン氏の報告書(A/HRC/14/24/Add.6)に記された問題は、戦争法の下での目標を絞った殺害の合法性、国際人道法、国家が自己防衛の権利を思い起こすときに適用できる法律、戦争法が適用される武力紛争の定義と範囲、武力紛争の状況において誰を、いつ、誰によって目標として殺害できるか、使用が許される武力の大きさを統制する規則、特に無人機による殺害の合法性、透明性と説明責任に関する国際法の必要条件です。


 本文中の註釈と、この後に書かれている著者紹介や連絡先に関する部分は省略しました。

 「targeted killing」の概念について、アルストン報告書は2000年にイスラエルが使ってから一般化したと書いています。風間直樹参議院議員(民主党)のブログには、もっと前から使われていた(ブログはこちら)という説明があります。この言葉は、今後、国際法上の用語として定着するかも知れません。報告書自体はまだ全部読んでいませんので、後日、書ければと考えています。


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