板門店の北朝鮮軍兵士がヘルメット着用

2010.6.3

 朝鮮日報によると、38度線内にある板門店の共同警備区域(JSA)で、北朝鮮軍兵士が先月27日からヘルメットを着用しています。

 これは韓国軍の関係者が2日に明らかにしたもので、南北の軍事的な緊張が高まる中、北朝鮮が「戦争が起こっても覚悟はできている」という心構えを持っていることを、外部に示すためとみられます。


 韓国軍は慎重でした。約1週間、北朝鮮の兵士がヘルメットを着用し続けるのを確認してから公表に踏み切ったのです。一定期間観察することで、これが一時的なものかどうかを確認したかったのでしょう。

 朝鮮戦争の休戦協定によって、38度線内には重火器の持ち込みが禁止されています。非武装地帯とはいえ、小銃程度までの武器は持ち込みが認められているのです。さらに、JSA内は拳銃とその弾丸45発しか持ち込めない決まりです。JSA外部では小銃を携帯したパトロールが行われていて、中立地帯を侵犯する者がいないかを調べています。小銃だけしか認めないのは、重火器を持ち込むと、銃撃戦が一気に本格的なものになるためです。JSAは国連が設置した会議場を韓国と北朝鮮の兵士が警備している場所で、会議場の中心で領域が北と南に分けられています。1976年の「ポプラの木事件」以前は、こういう仕切りはなかったのですが、この事件で北朝鮮兵士が米軍将校と韓国軍兵士を殺傷したため、分離することになったのです。もし、JSAで武力衝突が起きれば、JSAの背後にある警備所から小銃を持った増援部隊が送られることになります。JSAは南北対立の象徴なので、北朝鮮としては、ここで戦闘態勢を見せれば、効果があると考えたのでしょう。しかし、すでに述べたように、ここにいる部隊は重武装していません。ここで戦闘が起きれば、それは全面戦争を意味します。ある意味では、よほどのことがない限りは戦いが起こらない場所でもあります。経済制裁に対して全面戦争を予告しながら、ほとんど戦争の準備を見せない北朝鮮がやれたのが、精々、この程度のアピールだとすれば、これは北朝鮮の困窮を示す格好の材料となります。

 私は2005年にJSAを見学しました。そこで驚いたのは、韓国側の建物はどれも立派なのに、北朝鮮側の建物はボロボロで、屋根には錆が浮いていたこと。北朝鮮軍兵士の身長が低く、体格が貧弱なこと。その反面、JSAから見える場所に「豊かな北朝鮮」を宣伝するために建てられた、村を模した建物の一群と、世界で一番高いという国旗掲揚塔がありました。その村に村人はおらず、軍が管理しています。韓国は38度線内に大成洞という本物の村を設けて、農業を行っています。こうした実態を世界が知れば、ヘルメットを被ったくらいで威嚇できないことは、誰の目にも明らかになるでしょう。


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