天安事件で駐韓ロシア大使館が激怒

2010.6.21

 19日に朝鮮日報が「哨戒艦沈没:『原因は内部爆発』と駐韓ロシア大使が発言?」という記事を報じましたが、どうやら真実ではなさそうです。

 これは、韓国民主党の崔文洵(チェ・ムンスン)国会議員がロシアのブヌコフ駐韓大使と17日に会った際、大使が「『天安』の沈没はクルスク沈没事件とまったく同じだ」と語ったとする報道資料を配布したというものです。しかし、このことが報じられると、ロシア大使館は「真っ赤なうそ」「憤慨している」と、ブヌコフ駐韓大使がこのような発言をした事実はないと反論しました。騒ぎが大きくなると、崔議員は「ブヌコフ大使が『クルスク沈没事件と同じだ』と発言したのは事実だが、『天安』の事故原因を内部爆発とした言及はなかった。一部メディアが誇張して解釈し、問題が生じたようだ」「クルスク沈没事件と同じだという発言は、韓国に派遣されたロシアの調査団が専門的であり、ロシアにも韓国のように潜水艦沈没経験があるという意味だった。ロシア大使は『天安』の沈没原因には全く言及しなかった」と釈明しました。


 クルクス沈没事件とは、2000年8月、バレンツ海で魚雷が爆発してロシアの原子力潜水艦クルクスが沈没した事件です。つまり、崔議員の見解は、天安事件が北朝鮮の魚雷が引き起こしたのではなく、天安内部の爆発が原因だという意味だと受け取られたのです。

 クルクス沈没事件でも、他国の潜水艦と衝突したといったデマが流れましたが、精密な調査の結果、ロシアは魚雷の燃料が漏れて引火したものと結論しました。これだけ正確な調査ができるロシア海軍が、天安事件で変な結論を出すはずはありません。ロシア大使館が激怒したのは、まだ調査中なのに、根拠のない見解が流布されたためです。ロシアは冷戦中には理解できない声明を何度も出しましたが、これは冷戦の戦略に基づいたものでした。ロシアは高い基礎技術を持つ国であり、科学的な考察は得意なのです。

 結局、記事は誤読のために間違って理解されたわけですが、この件で朝鮮日報は21日付けで「天安疑惑説でどれだけ韓国に恥をかかせるのか」という社説も掲げ、なぜ韓国内部から事件を混乱させるような情報が出るのかと不満をあらわにしています。韓国内には北朝鮮のシンパもいるので、こうした出来事にはかなり敏感なのです。日本ではあまり報じられていませんが、韓国ではこの事件に関して謀略説が吹き荒れています。

 これとは違う性質の問題が日本にはあります。先日、日本テレビ系のニュースを見ていたら、天安事件に関して、中国とロシアが北朝鮮の関与を否定しているという見解を述べていて、私はびっくりしました。ロシアが調査団を韓国に派遣したことが報じられて以来、ロシアの調査団が結論を出したという記事は目にしていなかったからです。これはおそらく、冷戦時代を引きずっている古株の報道局員の見解でしょう。報道の世界には、時代の変化についていけない人がいて、しばしば妙な見解を出します。湾岸戦争で、冷戦後には死語になった「代理戦争」が行われたという見解を目にしたことがあります。北朝鮮とロシアはごく一部ですが、領土を接しています。このため、それなりの交易関係はありますが、ロシアが北朝鮮の軍事的な謀略に付き合う理由はすでになくなっています。しかし、古い頭では、ロシアは天安事件で北朝鮮をかばうということになるわけです。実は、日本の報道界はかなり頑固な前例主義に支配されています。報道記事を読むときは、これを常に意識して、書き手が実状を無理矢理、前例にあてはめようとしていないかをチェックしなければなりません。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.