「テロとの戦い」にさようなら

2010.5.28


 military.comによると、オバマ大統領がブッシュ政権時代の「テロとの戦い(war on terror)」から、本土防衛に焦点をあてた安全保障戦略を公開します。

 また、オバマ政権は米軍の優位性は無骨な外交と開発援助から情報収集まで、国政術のすべてのツールとマッチしなければならないと言うとみられます。これに関して、ヒラリー・クリントン国務長官(Secretary of State Hillary Clinton)はブルッキングス研究所(the Brookings Institution)でスピーチを行いました。

 対テロおよび国土保安の国家安全保障副補佐官ジョン・ブレナン(John Brennan)は「我々は米国内で過激派の活動や大儀に魅了される人たちの増加を見てきました」「大統領の国家保安戦略は自宅で急進的になった個人が引き起こす脅威を明確に認めています」「我々は、米国のパスポートを用意し、簡単にテロリストの隠れ家へ行ってアメリカに戻る、米国市民を含む個人を見てきました。彼らの致死的な計画は調整された諜報と法執行により中断しました」と言いました。これは、ハサン少佐の銃撃事件やタイムズスクエアの爆破未遂事件を指します。CNNのウェブサイトに掲載された5月21日の米国国土安全保障省のアセスメントは、当局が工作員は国内におり、僅かかまったくの警告なしに計画を実行することを前提に活動していると言いました。ブレナンは、オバマ政権発足後、アルカイダに対する前例のない圧力が、このグループが移動し、資金を集め、リクルートを行って攻撃を実行するのを大きく制限してきたと言いました。しかし、彼はこのネットワークは、テロリストの通常のプロフィールに合わないので、アメリカの防衛線をすり抜け得る訓練度の低い歩兵に頼っていると言いました。「これがテロリストの脅威の新しい段階です。もはや調整され、洗練された9/11スタイルの攻撃に限定されません」「私たちの敵が適応し、戦術を発展させるのとおなじく、私たちも絶えず適応し、我々の戦術を発展させる必要があります」「大統領の戦略は私たちが直面する脅威について完全に明確です。私たちの敵はテロリズムではありません。テロリズムは戦術でしかないからです」「私たちの敵は恐怖(terror)ではありません。なぜなら、恐怖は精神状態であり、アメリカ人として、私たちは恐怖の中で生きることを拒否するからです」「我々は、私たちの敵を聖戦士とかイスラム教徒と言いません。なぜなら、聖戦は神聖な戦いで、イスラムの本当の教義は個人や社会から悪いものを取り除くことを意味するからです」。

 ブッシュ政権の愚かな戦略はゴミ箱に投げ捨てられたのです。やっと、まともな安全保障体制にむけ、アメリカが動き出したと実感し、私は心から感動を覚えました。遅きに失したとは言え、過ちは改めるにしかずです。

 そもそも「テロとの戦い」という用語自体がおかしいというのは、当サイトに掲載している米戦略研究所のジェフリー・レコード教授が書いた「BOUNDING THE GLOBAL WAR ON TERRORISM」において、2003年12月にすでに指摘されていたことです。この用語は「テロ」と戦うという意味ですが、テロリズムは手法であり、戦うべき相手を指していないとレコード教授は明確に指摘しました。レコード教授はクラウゼヴィッツの教訓を引用し、敵を明確に見定めて、的確に攻撃することの重要性を説きました。「テロとの戦い」という用語では、攻撃すべき敵が不明確で、無駄な攻撃を繰り返すことになると教授は指摘したのです。この論文を翻訳したとき、自分が考えたブッシュ戦略の誤りが指摘されていることに驚いたものです。テロに対する先制攻撃論は焦点を欠き、必ず失敗すると、私は主張し続けてきました。それから、なんとすでに7年近くが過ぎました。

 この戦略変更を行うために、イラクとアフガニスタンから撤退するとオバマ政権は決断したのです。これからは貴重な財源をもっと有効なことに使います。海外に軍事基地を建設し、そのために大量の請負業者を雇って、無駄な金を使うことはなくなります。アルカイダの内部を探るために諜報に力を入れ、必要に応じて、特殊作戦を展開していくことになります。まずはアメリカ本土を守り、海外任務は限定的にします。なにより、アメリカに対する敵意を取り除いていくことに力を注ぐべきです。

 このオバマ政権の戦略変更を見誤らないでください。これで時代が変わります。

Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.