天安事件:北朝鮮が妙に弱気なコメント

2010.5.21


 military.comによると、韓国は「天安(チョンアン)」の沈没事件の原因を北朝鮮による魚雷による攻撃と結論づけたことについて、北朝鮮は関与を否定し、韓国の調査報告を捏造と主張し、どのような報復も戦争を誘発すると警告しました。

 記事の内容は国内報道と大差ありませんが、気になることがあります。海軍広報官パク・インホ大佐(Col. Pak In Ho)が、平壌でのAPTNとの独占インタビューで、北朝鮮は報復や懲罰に対しては全面戦争(all-out war)で答えると言いました。これは国内報道でも報じられていることですが、彼の次の発言は対照的です。「我が朝鮮人民軍は他国を攻撃するために設立されませんでした。我々は他国を先に攻撃する意図はありません」「我々と関係がなく、攻撃する必要がなく、そうする重要性のない天安のような艦を、我々がなぜ攻撃しなければいけませんか」。

 パク大佐の階級の「Col.」は誤記でしょうが、「大佐」と訳しました。本当は「Capt.」でなければなりません。

 無関係を装ったり、先制攻撃をしないことを宣言することで、制裁を防ぐための方便かも知れませんが、妙に消極的なコメントです。 確かに、北朝鮮軍は外国を侵略するための軍隊というよりは、本土防衛用の軍隊です。今回韓国軍を攻撃した海軍には、侵攻作戦を支援するような能力がほとんどありません。空軍は旧式の機体しかありません。陸軍は38度線の北側に構築した巨大陣地が評価できますが、空軍の支援がほとんどない状態での侵攻能力には疑問があります。こんな軍隊である上に、物資不足がいわれる北朝鮮が、長期の全面戦争に耐えられるはずはありません。長期戦が無理なら、速戦即決のために陸上部隊を侵攻させ、ソウルを占領することを狙うかも知れません。これは米韓軍によって刈り取られる結果を生み、問題をより簡単にします。もし、この侵攻作戦が頓挫したら、これを機会に韓国が38度線の防衛施設を破壊にかかり、分断状態の解消を狙うかも知れません。これによって、北朝鮮国民の士気が一気に失せる可能性もあります。アメリカとの緩衝地帯を残したい中国は、金体制の排除と引き替えに、米軍に韓国内に留まるよう交渉を始めるかも知れません。しかし、最も可能性が高いシナリオは、北朝鮮が全面戦争を宣言しながら本格的な戦闘が行われないことです。行われるのは、ごく小規模な戦闘だけで、米韓軍が北侵しない限り、それ以上に戦闘が拡大することはないという状況です。北朝鮮は、敵が攻めてこないのだから勝っているのだと言い、韓国は大量破壊兵器の使用を懸念して、北朝鮮の忍耐が尽きるまで待つことになります。言うまでもなく、これは日本にとって、声援を送るだけで済む、最も楽なシナリオです。

 しかし、最悪の状況も考えてみましょう。北朝鮮が「制裁でも全面戦争」と宣言したわけですから、国連が何か制裁をした途端に、朝鮮半島で戦争がはじまることになります。日本も最悪の状況を覚悟しておくことです。鳩山総理は今回の事件を「許し難い」と評しており、韓国への支持を正式に表明しています。全面戦争の際には、日本も攻撃対象になると考えなければなりません。日本人が考えようとしないのは、朝鮮半島有事の際には、在日米軍が北朝鮮軍の攻撃対象になることです。いま問題になっている普天間基地も攻撃対象になるわけです。基地の周囲にある住宅地に、北朝鮮が発射したノドンミサイルが落ちるといった可能性もあります。当然、自衛隊も臨戦態勢に置かれます。国内にいる北朝鮮の工作員やシンパによる破壊工作が行われる可能性もあります。この場合、無関係な在日朝鮮人に差別的な待遇を行うことを避けながら、国内の安全を確保していく必要があります。以前から指摘しているように、朝鮮半島有事には日本も否応なく巻き込まれるのです。この場合の対処策については、今のところ、何の動きもありません。テポドン2号発射の際には大騒ぎでしたが、それ以上の情勢変化に対して、誰も動こうとしないのです。朝鮮半島有事があるとすれば、日本はほとんど準備不足のまま突入することになります。夏休みの宿題をやらなかった小学生のように有事体制を急造すれば、それは非常に悪い結果を生むでしょう。やっつけ仕事なので、あちこちに問題を生じるのです。同時多発テロ以降、アメリカが国内でイスラム系米人をテロリストと間違えて逮捕したような問題が、日本で連発することになります。

 また、米軍は北朝鮮との緊張を避けるために、木曜日から月曜日まで行われる予定だった演習「勇気の海峡(the Courageous Channel)」を中止しました(記事はこちら)。これは1996年以降、毎年行われている演習で、米民間人を朝鮮半島から避難させる訓練です。軍事演習を中止すれば、北朝鮮に弱気だと受け取られますが、民間人の避難訓練なら、そういう心配はないでしょう。この記事には、今回の事件に対する韓国の対応も書かれています。

 韓国の専門家とメディア筋は、韓国が報復を行ういくつかの措置を発表する予定だと言います。それは以下のようなものを含みます。

  • 国連安保理に対して、北朝鮮に対する行動をとるよう要請する。
  • 今年後半に黄海で対潜水艦共同演習を実施することを含め、韓国とアメリカの北朝鮮の侵略的行為に対する防衛を強化する。
  • 北朝鮮に対し、反北朝鮮の宣伝報道を含む心理作戦を再開する。
  • 南北朝鮮の経済プロジェクトを見直し、北朝鮮に対する国際的経済制裁を促進する。

 これらは公式発表ではありませんが、当サイトで指摘したように、韓国が直ちに軍事的手法を使う気がないことを示唆しています。北朝鮮もこれを予測して魚雷攻撃を行ったのです。これは他の戦争とは違う、朝鮮半島問題の特質から生じるものです。

 最近の潜水艦は静音性が高いことや潜水艇が小型であることから、小型潜水艇のスクリュー音をソナーで探知できるのかは疑問です。潜水艇が発射した魚雷が後方から接近した場合、自艦のスクリュー音で魚雷のスクリュー音が聞こえないこともありますから、対潜水艦作戦の訓練で問題を解消できるかは疑問です。

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