英軍のPTSD発症率はなぜ低い?

2010.5.18


 military.comによれば、イギリス軍の戦闘部隊は米軍よりもPTSDが大幅に少ないことが最近の研究で明らかになりました。

 ハーバード大学の心理学者リチャード・J・マクナリー(Richard J. McNally)は「規模と厳密さにおいて、これは本当に画期的な研究で、発見したことは驚くほど有益です。」「大きな謎は、我々がこうした国家間にまたがる違いを見出した理由です」と言います。イラクやアフガニスタンでPTSDの症状をみせたイギリス兵は、アメリカ兵が10〜20%なのに対して、わずか4%だけでした。研究者は2007年から2009年までの陸海空軍隊員に実施した精神衛生アンケートを分析しました。その結果、20%が不安神経症や鬱病を含むなんらかの精神衛生の問題を持ち、13%が深酒をしていることを示しました。しかし、PTSDと診断されたのは少数でした。この差について考えられる理由は、予備役の活用とドウェル時間(dwell time 派遣から次の派遣までの間隔)の違いです。調査は、イギリスの予備役兵がよりうまくPTSDに対処しているらしいことを明らかにしました。同じことがアメリカ人についても言えるなら、これがイギリス軍の予備役が10%だけなのに、米軍のそれが30%という高率の原因かも知れません。イギリス兵は6ヶ月間派遣され、36ヶ月間の中で12ヶ月以上派遣されることはありません。軍にもよりますが、米兵は一度に12ヶ月以上務め、派遣の間隔は1年だけです。

 医学的な調査なので、2国間でPTSDの診断基準が違うといった問題はクリアされているものと思います。内容も、これまで言われている事実を裏づける内容です。この調査結果は、イギリス軍はPTSDが少ないと単純に考えるべきではありません。神経症や深酒を経験している兵士が多いのは、PTSDの一歩手前と見るべきです。しかし、イギリス軍はドウェル時間が長いので、その間に兵士は問題に対処できる余裕があるのです。米軍は第二次世界大戦でも、兵士を明らかに異常な状態になるまで長期間前線に置いたままにして、同様の問題を起こしました。米軍は研究を怠ってきたために、派遣期間に関する明確なガイドラインを確立できていないのです。

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