対テロ戦の限界による戦略転換

2010.5.14


 military.comが、現在行われている対武装勢力戦の負担に関する記事を掲載しました。記事を要約して紹介します。

 イラクとアフガニスタンで行われている大規模な対武装勢力戦はあまりにもコストがかかり、長期間続いています。この戦いは軍と民間人に高度の犠牲があり、装備品を消耗し、明確な勝敗をもって終わりを見ることがありません。さらに、洗練されていない武装勢力は攻勢のままでいられるのに対して、アメリカの技術が進歩した地上軍は守勢に置かれます。

 多くの米国防総省の戦略家は、将来の対武装勢力戦は少数のアメリカの地上軍とより多くの軍事教官、特殊部隊、空爆が関与しなければならないと考えています。それは地元民が武装勢力と戦うように訓練しなければなりません。軍隊はこれを「外国の国内防衛」と呼びます。

 新しい種類の対武装勢力戦は「現地民と少数のアメリカ人」です。このアプローチはイエメンとパキスタンで示されています。イエメンには、米軍の教官が派遣され、主に偵察のために航空支援を与え、7,000万ドルの軍事援助を提供しました。パキスタンでは、無人攻撃機による空襲、5年間で75億ドルの援助、約100人の特殊部隊の教官を与えています。

 ロバート・ゲーツ国防長官(Robert Gates)は「アメリカは近い将来、アフガンとイラクのような規模の任務を繰り返しそうにありません」という考えを示しています。最近、マイク・マレン統合幕僚議長は将来において軍隊がどう訓練され、装備されるべきかを検討するよう命令を出し、方針の変更を認めました。

 経済の失速は、同時多発テロ以降、着実に上昇した軍事費に多くの変化を引き起こしました。2001年にドナルド・ラムズフェルド国防長官(Donald H. Rumsfeld)が就任した時、国防予算は2,911億ドル(現在の3,577億2,000万ドル)で、現在の国防予算と戦費は7,080億ドルです。

 国防総省のプランナーは予算削減は回避できず、戦略の変更はそれを助けると言います。率直に語るために匿名を希望した軍高官は「我々はいま、何が機能するかを解明しなければなりません。我々にはほとんど制限のない予算があったものですが、いまはありません」と語りました。

 米国史上のほとんどの戦争では、国防費は2年以内に戦前のレベルに落ちましたが、イラクとアフガンの戦いが終わっても出費はすぐに落ちそうにありません。アルカイダのようなグループは明確に打倒できないためです。アフガンは地形が荒れているため、費用はさらにかさみます。現在、戦争は国防総省の予算の1,590億ドルを占め、イラクに96,000人、アフガンに87,000人がいます。

 2011年7月にはアフガンからの撤退を開始し、この年が終わるまでにイラクからの撤退が完了する予定です。それは、アメリカが形のないテロ組織ではなく、別の国と戦うという将来の戦争を準備するのを可能にすると軍の戦略家は言いました。同時多発テロ以降、アメリカが過去の紛争のような戦いの訓練は少ししか行われませんでしたが、インドとパキスタン、北朝鮮と韓国、中国と台湾の間の戦いに関与した可能性がありました。

 ピーター・キアレッリ大将(Peter Chiarelli)は、こうした軍の改造には360億ドルかかり、2013年までに終わらないだろうと議会で述べました。

 戦略変更がソマリアやイエメンのような「失敗した国家」を支配しそうな武装グループを打ち負かすことには疑問もあります。訓練教官や空襲は訓練された軍隊を率いる強力な地元の政府を必要としますが、アルカイダのようなグループに影響を受けやすい国においては見出しにくいのです。アメリカに対する別の大きな攻撃があれば新戦略も頓挫します。デトロイト行き旅客機の爆破未遂事件はテロリストの行動に限られた選択しかないことを明らかにしました。上級の国防総省当局者は、犯人が訓練を受けたナイジェリアの村を攻撃することはできなかったと言います。大規模な軍事行動にはより小さな活動がすることよりもよい結果はないのかも知れません。アメリカが大勢の軍隊と何億ドルを対武装勢力戦に投資して約9年後、ウサマ・ビンラディンは逃走中のままです。

 以上がざっとした要約です。

 対テロ戦は財政的に裏付けがなく、いずれはどれかを制限せざるを得なくなるという見通しは2003年に発表された「BOUNDING THE GLOBAL WAR ON TERRORISM」に、すでに書かれていたことですが、いよいよそれが現実味を帯びてきたようです。たとえば、アルカイダのようなテロ組織は打倒しがたいことも、財政的裏づけがない対テロ戦はいずれどれかを取りやめなければならなくなるということも、この論文に指摘されていました。ブッシュ政権が吹き荒れさせた復讐の嵐のために、こうした冷静な議論は脇に追いやられてきました。

 ここに書かれていることは、同時多発テロ直後に私が考えた見通しとも大差ありません。対武装勢力戦では、正規軍が守勢に置かれることくらい、最初から分かっていたことです。イラク侵攻のような大規模な作戦は必要がなく、テロ組織だけを狙った小規模で特殊な作戦の連続になるのが、正しい対処でした。 イラクやアフガンに大軍を送れば、日本周辺の防衛にも影響があります。普天間問題で沖縄の海兵隊がイラクやアフガンに派遣されていることが明らかになりました。民主党政府が説明するように、海兵隊が「抑止力」のために存在するのだとすれば、沖縄に存在しないといけないはずですが、実際にはそうではありません。海兵隊は必要ならば、どこにでも行くのです。米軍が疲弊することは、実は日本の防衛にも関係します。アメリカからは何度か、陸上自衛隊のヘリコプター部隊をアフガンに派遣して欲しいという要請が出ています。米軍に限らず、戦争においては、敵に無駄な力を使わせ、自分の力は温存するのが得策です。米軍はその罠の中に落ちています。こうした見地から、私はイラク侵攻に反対し、戦略を変更しなければならないと言い続けてきました。おまけに正しい戦略を採用しても、勝利は極めて難しいのです。

 率直に言って、戦略を転換すべき時期は、とうに過ぎています。今からはじめても間に合わないでしょう。アルカイダがアメリカを打倒することはできません。しかし、その逆も難しいので、アルカイダは存在し続けるでしょう。いずれアルカイダの存在を国際社会が認める日が来るかも知れません。多分、それが最も現実的な世界の未来です。

 冷戦時に拡大した米軍の組織は大幅に改編されるべきです。椅子を磨くためにだけ用意された職務はなくなるでしょう。「国防の礎」として尊重されてきたものが、実は時代遅れになっており、退場願う必要があることを明らかにしていく必要があります。ラムズフェルドは冷戦の象徴的存在でした。長年、国防に関与してきたにも関わらず、簡単に判断を誤ったのです。冷戦中の古い頭でアルカイダに対処しようとしたためでした。共産主義という強力な対抗者がいた時代には、こんな人でも仕事ができたのです。国防総省にはこういう人があちこちにいるはずで、かかる不良在庫は一掃されるべきです。

 その上で、こうした紛争が生まれるのを防ぐにはどうしなければいけないかを考えなければなりません。これこそ、世界に最も必要なものです。


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