ゲーツ国防長官:官僚機構を削減

2010.5.12


 military.comによれば、ロバート・ゲーツ国防長官(Defense Secretary Robert Gates)がアイゼンハワー図書館でスピーチを行い、いまも軍隊を形成する冷戦型の軍隊を終わらせるために明確な要請を出しました。

 ゲーツ国防長官はアイゼンハワーの軍と産業界の権力の増大に関する警告を引用しました。また、彼や他の指導者が物事を片付けるために苦労して通り抜けなければならない腰まで浸かった官僚機構の減少を同時に要請しました。

 非常に長い記事なので、解説を中心にして紹介します。

 アイゼンハワーは第二次世界大戦時の連合軍最高司令官ドワイト・D・アイゼンハワーのことで、彼の警告とは退任のテレビ演説で「軍産複合体(the military-industrial complex)」の概念をはじめて明らかにしたことを指します。戦前までは大したことのなかった米軍が第二次大戦で大幅に強化され、原子爆弾の登場と冷戦の台頭で、まったく新しい時代を経験することになったとき、より高度な兵器が必要となった軍隊に、民間の産業界がべったりと癒着している社会構造ができあがったことを、アイゼンハワーは指摘しました。軍産複合体の無制限な拡大には注意しなければならないと、彼は言いました。刀鍛冶が戦士の剣を作っていた時代と現代はまったく違うのです。軍はますます複雑化する兵器に対応するために部署を増やし、巨大な官僚組織になってしまいました。こうした時代に国防長官を体験したロバート・S・マクナマラは、回顧録などの中で、ビジネス界にいた時のように、状況分析から導いた戦略を部下に指示することができなかったと告白しています。彼ほど頭脳明晰でも、巨大な官僚組織をコントロールすることはできなかったのです。

 演説の全文(こちら)は非常に長いので、「考慮すべき疑問」としてあげられた3点を紹介します。

我々の司令部と事務局は主に、現実のニーズや任務に関連した活動を監督することに比べて、どれだけ報告や他の司令部や事務局を監督することに従事していましたか?

2つ星の副官を1つ星の副官へ、次官補は次官補代理へという流れ、より効果的で、よりコストが低い組織を作るカスケード効果によって、どれだけの幹部や将官の席をより低い階級へ変えることができましたか?

補給、情報、政策、その他のなんであれ、反復的に行われたり機能が重複する多くの命令系統や組織が、どれだけ統合されたり完全に取り除かれたりしましたか?

 対テロ戦に関して、基本的に政治家たちは軍人の意向を尊重しています。細かいことには口を出しませんし、関与するのは戦略面だけです。オバマ大統領は国防費の削減を公約にしていました。しかし、この政策転換はすぐには実行できません。前政権が決定していたものは、そのまま引き継がれるからです。このため、オバマ政権の1期目は国防費は上昇することが予測されていました。流れを変えるには、次々と手を打っていって、かなり先になって効果が見えてくるという形になります。その通り、オバマ政権は国防費を透明化し、対テロ戦の予算も悪名高かったブッシュ政権のやり方も改めました。今回のゲーツ長官の演説は、こういう動きの一つです。つまり、国防政策の中でもベルトコンベヤー型の話ではなく、政治主導の大規模な改革です。これは、オバマ政権から出た改革なのです。

 これまで国防総省の予算や組織に手をつけようとすると、上級幹部がずらっと並んで、長々とプレゼンテーションを行い、政治家がうんざりしながらも黙って話を聞くといったルーチンが繰り返されてきました。こうした無駄をなくして、国防総省をもっとスリムにしようということです。言うまでもなく、これは国防総省の強い抵抗に遭います。しかし、経済的にも後退し、大規模な戦争を長期間続けているアメリカにとって、これは不可欠の改革です。もともと、冷戦が終わったあとで、米軍自身が改革すべきことでしたが、長いこと既得権益につかっていた米軍に自浄能力は期待できませんでした。それどころか、民間軍事会社に大量外注し、問題を連発しながらも改められないくらいです。つまり、これは政治家の誰かがいつかはやらなければならなかった問題です。ブッシュ政権期にやっても、ちっともおかしくない問題でした。今後、この改革がどこまで進むのか、非常に大きな関心を持って見守る必要があります。


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