国防総省報告「アフガン情勢は悲観的」

2010.4.30

 military.comによれば、米国防総省は悲観的なアフガニスタンの状況評価を発表しました。タリバンが勢力を拡大し、陰の地方政府を任命する時、戦略的に重要な地域のアフガン人でアフガン政府を支持する者は4人に1人だけです。

 この議会への報告書は、アフガンとパキスタンの対テロ協力が向上した過去3ヶ月間に暴力が横ばい状態だったこと、84%のアフガン人が治安が良好または希望が持てると感じているという調査結果など、若干の進展を概説しています。しかし、2009年2月から2010年3月までに、暴力の全般的なレベルはマルジャ戦のためもあって87%へ上昇しました。アフガン政府の汚職は深刻なままです。「アフガンは汚職対策、特に法律と組織の改革で若干の進展を遂げた一方で、本当の変化は見えにくいままで、政治的意志は特に疑問が残ります」。世論調査は121の地区で24%だけがカルザイ政権を支持することを見出しました。同時に、アフガン人の半分以上がタリバンを、国を不安定にしたことを理由に批判しました。タリバン指揮官は米軍の増強に対応し、戦士に正面対決を避け、長距離での攻撃やIEDを増やしました。「この調査報告機関は、昨年の同時期に比べて、武装勢力の戦闘員が彼らの指導者により忠実になり、全土でIEDが236%増加し、距離を置く戦術を増加させています。マルジャ攻勢の効果についても疑問を提起し、アフガン政府が地方政府を導入するのと住民を味方につけるのに極めて重要な計画を進めるのが遅い、と指摘しました。「死刑を執行しに再浸透する武装勢力の戦術は住民にアフガン政府につくことを思い止まらせる役割を果たし、効果的な統治を導入する努力を複雑にしました」。タリバン主導の武装勢力の「作戦能力と作戦範囲は質的、地理的に拡大しています」。「アフガン政府の権威と合法性を傷つける(武装勢力が運営する)影の政府の実力と能力は増加しています」。タリバン武装勢力は損傷を受けた資源と士気を傷つけた指揮官同士の紛争により「前例のない圧力」を受けています。「武装勢力の見地からは、この損傷は最近注目を浴びたパキスタンに拠点を置く武装勢力の指導者が同国政府により逮捕されたことと多くのアフガンに拠点を置く指揮官が除去されたことにより増加しました」。

 さらに悪い情報があります。military.comによると、今年中旬にアメリカのミサイル攻撃で死んだと思われたパキスタンのタリバン司令官ハキムラ・メスード(Hakimullah Mehsud)が生きていることが確認されましたと言います。しかし、武装勢力のネットワークの中では影響力を失ったということです。

 マクリスタル大将の新戦略にも関わらず、アフガン国民はタリバンに不満を持ちながらも支持を止めようとしません。タリバンはこっそりマルジャに舞い戻り、自分たちから離れると殺すと住民を脅かせるのです。マクリスタル大将の戦略は間違ってはいません。しかし、成果をあげるには問題が大きすぎるのです。この見解は、何度繰り返しても足りません。友好国との外交政策と同じ感覚でアフガン政策を考えることはできないのです。友好国は自分と協調してくれますが、アフガンの現実はそれを無視します。このように、先進国としての驕りが発展途上国相手の政策で誤りを犯させるのです。以前から、オバマ大統領の増派は戦争目的を達成するためのものではなく、やるだけやったという既成事実を作り、アフガンから撤退するための方便だと、私は主張しています。そのために、増派される兵士は命の危険にさらされ、実際に多数が命を落とします。しかし、これくらいやらないと、第一にアメリカ国民が納得しないのです。ここに、アメリカ自身の問題があります。これは株投資が損失を生んでいるのに「また上がるのではないか」と考えて売却できない投資家の心理に似ています。株投資なら金の問題で済みますが、戦争には人命がかかっています。よりシビアな考え方に徹しないと、大敗することになるのです。日本も太平洋戦争において、すでに降伏すべき限界点を超えても「降伏は英霊たちに申し訳ぬ」として、最後まで戦おうとしました。しかし、世論とは不思議なもので、この単純な理屈を理解しようとしません。この悪癖を変えないと、アメリカはいつまでも同じ悪いパターンを繰り返すことになります。

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