給与未払いでソマリア兵が脱走

2010.4.29
追加・修正 同日17:40

 military.comによれば、100ドルの月給が支払われないために、アメリカの税金によって訓練したソマリア兵多数が脱走し、その一部はアルカイダ系武装勢力に参加しました。

 この大量脱走は来月始まるアメリカが支援するソマリア軍の増強が、単に武装勢力を増やすだけかも知れないという懸念を起こします。ぼろぼろのソマリア軍を再建するため、昨年と今年初めにアメリカは1,000人近い兵士を隣国のジブチで訓練する計画のために680万ドルを費やしました。兵士には毎月100ドルが支払われていましたが、ジブチで訓練された者の約半数が給料が支払われないために脱走したと、ソマリア軍のアーメド・アデン・ダーヨウ大佐(Col. Ahmed Aden Dhayow)は言いました。「一部は軍隊を諦め、普通の人生に戻り、他の者は武装勢力に加わりました」と彼は言います。ソマリアの国防大臣ユスフ・モハメド・シヤド(Yusuf Mohamed Siyad)は、一部の訓練兵がアル・シャバブに加わったことを認めましたが、脱走兵の数を特定するのを避けました。ソマリア軍への資金提供は、寄付をする国家、国連、ソマリア政府が関係する複雑な問題です。各国は時々、数ヶ月分の限られた兵士の給料をまかなうと約束し、金が尽きると給料は支払われません。アメリカは2007年以降、200万ドルを兵士の給料と補給品と装備品を購入するのに費やし、別の1,200万ドルは輸送、制服、装備品のために使われました。ソマリア政府の主要な軍事基地、ジャジラ基地(Camp Jazira)には、トイレ、診療所、フェンスすらなく、兵士は数ヶ月間無給で、上官が給料を横取りしたと言います。今年初め、給料が支払われた訓練兵と支払われなかった者との間で暴動が発生した後で、訓練兵の銃は没収され、棍棒と交換されました。大隊レベルの指揮官が食糧を奪う問題もあり、アメリカは今月、栄養失調の兵士が体力を取り戻すために食糧を送りました。シヤド国防大臣は、アメリカは現在1,800人のソマリア兵に給料を提供しており、別の3,300人は別の寄付国から給料を得ています。しかし、それは10,000人のソマリア軍の約半数です。フランスやドイツなど、他の国は訓練計画に貢献しました。ドイツは最近、エチオピアで終わった900人のソマリア警察の訓練に資金を提供しましたが、給料の支払いがなかったために脱走する恐れが出ています。給与の盗難や脱走を防ぐために、一部の国際決済通貨は「プライスウォーターハウスクーパース社(PricewaterhouseCoopers 国際的コンサルタント会社)」を通じて行われています。しかし、外交官は政府が提供した兵士のリストが支払を許可された人々と異なると不平を言います。ジャジラ基地の責任者、アハマド・ブラーレ大将(Gen. Ahamad Buraale)を含む将校は、プライスウォーターハウスクーパース社が兵士への支払を許可するIDカードを発行するのが遅すぎると言います。同社は依頼人との秘密保持契約を理由にコメントを拒否しました。「我々には逸話的な情報があるだけですが。これらの報告は脱走率がジブチの訓練兵では非常に低いことを示しています。ウダンガで訓練を受けた者の問題は脱走ではなく、政府の上級指導者の身辺警護のような別の任務に配属されることです」と国務省広報官は言いました。シヤド国防大臣は、ウガンダで6ヶ月の訓練を受ける予定の2,000人のソマリア兵へ給料が支払われることが不可欠だと言いました。欧州連合が訓練を主導し、アメリカが1月まで給料を支払います。兵士に長期間の給料を保証するのは難しい場合があります。多くの寄付国は軍隊が強姦、誘拐、殺人のような犯罪で知られていると、軍隊に寄付するのを嫌います。ソマリア政府は寄付国にたよることを強いられ、しばしば支払が遅く、給与支払への兵士の信頼を損ね、脱走や汚職を煽っています。ソマリア政府が社会サービスを提供し、軍事戦略を形成し、自分で軍隊に給料を支払えるという兆候はほとんどありません。

 発展途上国の軍隊や警察が資金不足で動けず、有効な統治能力を発揮できないという問題は、かねてから存在したことです。冷戦時代でも、東西陣営は互いに発展途上国に資金を援助して、自陣に有利な状況を作ろうとしました。これはリデル・ハート卿の「孫子」を引用した「戦略論」が広く採用されたこともあります。孫子の「戦わずして勝つ」という間接的アプローチは、戦闘(直接的アプローチ)が全面核戦争に発展するために行いがたい時代には有効だと考えられたのです。私としては、この解釈は誤解であり、孫子が言いたかったのは無用な戦いを避けることであり、戦うために積極的に間接的アプローチを用いるという考え方は孫子の主旨とは違うと思います。ともあれ、テロの時代には、別の形で発展途上国の支援が必要になったわけで、これはイラク侵攻よりも優先度が高い問題でした。アルカイダが発展途上国で勢力を拡大することは明らかであり、それを阻止するには、これらの国の治安組織を充実させるしかありません。よって、対テロ戦の最初から、こうした活動を充実させる必要がありました。それなのに、アメリカはイラク侵攻という、意味のない軍事活動に全力を投じました。これは明らかな戦略的誤りでした。その結果、米本土防衛のための機材をそろえる予算がまかなえないという矛盾すら生じました。必要なところに、必要な資源を投入するのが本当の戦略であり、敵に無用な策を弄させて隙を作るのも戦略です。アルカイダがそう仕組んだというよりも、アメリカが自分で道を踏み外して現在の状況があるのです。そこで、オバマ政権はイラクからの撤退を決め、アフガンからも撤退させる方向で計画しています。こうして、現地で部隊を維持する費用を節約すれば、ソマリアへの軍事支援もやりやすくなるはずです。ブッシュ政権がやるべきだったことを、オバマ政権がやろうといています。これでテロ問題が解決するかは依然として、極めて困難です。すでに必要な時間が失われた可能性を、私は指摘します。国際社会はテロ組織のうしろを追いかけているだけです。それでも、これは通らなければならない道なのです。2003年にアメリカがイラクに侵攻したとき、湾岸戦争時のように、日本が国際貢献で遅れをとらないように自衛隊をイラクに派遣すべきだと考えた人は、こうしたことまで読んだ上で判断したかを、今一度考えてみてください。最終的に、私はプロパガンダがテロ撲滅で重要になるかも知れないと考えています。発展途上国でテロ組織が支持される理由を減らすには、プロパガンダが重要で、そのためにはメディアの力も必要です。

 もう一点。military.comによれば、国連安全保障理事会は、潘基文(バン・ギムン)国連事務総長にソマリアの海賊を起訴するための地域的、国際的な法廷をどのように設置すべきかを調査し、3ヶ月以内に報告することを要請するロシアの提案を満場一致で採択しました。この動きは、ケニヤが海賊を起訴するのを止めたことに対する反応です。17日に、ソマリアの海賊をどう裁くかという記事を紹介し、そこで私は国連に裁判所を設けるしかないと書きましたが、その通りの動きになってきたようです(関連記事はこちら)。


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