見えない孤独なテロリストたち

2010.3.12


 アフガニスタン情勢や対テロ戦争に関する複数の記事が報じられています。military.comによると、米下院は、賛成356、反対65で、年末までにアフガンからすべての米軍を撤退させることに反対する決議を行いました。共和党員で賛成したのは5人だけでした。

 民主党のデニス・クシニッチ下院議員(Rep. Dennis Kucinich)は、オバマ大統領に就任から30日以内にすべての米軍をアフガンから撤退させるよう命じた決議を書きました。大統領が期限を安全ではないと考えるなら、今年末までにアフガンでの駐留を終わらせられます。オバマ大統領は2011年7月にアフガン撤退を開始したいと望んでいます。クシニッチ下院議員は、大統領が90日間以上、軍隊を紛争に派遣するとき、議会の承認を必要とする、1973年の戦争権限法に決議の起訴を置きました。同時多発テロ後、議会は軍がテロリストと戦う許可を与えましたが、クシニッチ下院議員は、この権限をブッシュ、オバマ大統領が不当に使ったと主張します。共和党は、あまりにも急いだ撤退は、タリバンが力を回復し、アルカイダやその他のテログループが、アメリカや西欧へ攻撃を再開させると主張しました。

 クシニッチ下院議員の主張は軍事問題の視点ではなく、法律問題の立場に立っています。法律で戦争を制限する手法は、過去失敗を続けてきました。戦争の危機が目の前に迫ると、行政側は法律を拡大解釈してでも戦争を始めます。そして、危機が目の前にあると反対意見も出にくいので、法律は効をなさないのです。オバマ大統領が現在、対テロ戦争を続けているのも、法律的にはブッシュ政権に許された権限を継承している形になり、クシニッチ下院議員はその点を指摘しているのだと考えられます。軍事的には政権交代後、30日間でアフガンに展開した部隊を撤退させるのは不可能です。だからといって、クシニッチ下院議員の意見が無意味だと決めつけるのも、また誤っています。むしろ、共和党などから出ているテロの脅威論は、未だに脅威を混合した不正確な内容で、こちらの方こそ気になります。タリバンそのものは、アフガンに基盤を置く、地域的なテロ組織です。パキスタンにも拡大を見せていますが、それ以上に拡大するかは疑問です。また、ノウハウの点でも、アルカイダのような高度な技術は持たず、彼らがイスラム諸国から国際的な支援を受けられるかどうかも疑問です。ところが、アルカイダのテロリストは、アフガンなどの地域に依存せず、世界中どこからでも志願者を募り、訓練を行えます。アメリカや西欧諸国でテロ攻撃を行うような者たちは、アフガンという地域とは関係がありません。どうも、政治家や世間は、映画や小説に登場する「国際テロ組織」のイメージで、現実のテロ組織を見ているように思われます。実際のテロ組織の動きはもっと複雑です。

 別のmilitary.comの記事を見ると、イランのタリバンへの支援は極めて限られているというロバート・ゲーツ国防長官の見解が載っています。イラクのシーア派武装組織へイランは多大な支援を行いました。しかし、アフガンではそうではありません。別のmilitary.comの記事を見ると、インターネットがテロリストを急進的にして、訓練の手段として使われていると書いています。デトロイトで旅客機を爆破しようとしたウマール・ファルーク・アブドゥルムタラブ(Umar Farouk Abdulmutallab)は、組織に認識され、コンタクトされ、徴用され、訓練されるのに全部で6週間かかりませんでした。YouTubeなどのウェブサイトで自身の声明を公表し、ネット上では「ジハード・ジェーン」の別名で知られるコリーン・レネ・ラローズ(Colleen Renee LaRose)は、テロリストに資材を提供して支援し、スウェーデンの漫画家に対する攻撃を行うために同国へ旅行し、10月に起訴されました。

 一匹狼や「指導者を持たない聖戦」を行おうとする個人は、見つけるのがさらに難しくなっていると、記事は書いています。さらに、別のmilitary.comの記事は、アルカイダがこうした孤独な攻撃者に変化するかも知れないと書いています。最近、アメリカ生まれのアルカイダの広報官アダム・ガダム(Adam Gadahn)は、より小さく、単独で聖戦を行うための広告を制作しました。「西欧の大量輸送機関に対する失敗したように見える攻撃ですら、大都市の機能を停止し、莫大な敵を犠牲にし、その企業を破産に追い込める」とビデオで声明しました。このビデオはアメリカに本拠を置く、イスラム武装組織のメッセージをモニターしている「Site Intelligence Group」によって翻訳されました。

 この記事が示しているのは、米議会のような公開された、大きな組織はテロ防止のポイントすら見えておらず、従来型の発想から抜けられていない一方で、テロリスト志願者がインターネットのようなツールを用いて、より見えにくくなっているということです。議員がお決まりのセリフを繰り返している間にも、テロリストは新しい形へと変化しています。今後、この傾向は進み、社会に適応できない者たちが、こうした活動に取り込まれていく危険を考えるべきです。テロ攻撃の独習用教材は簡単にインターネットに掲載できます。治安当局が削除する前にどこかでダウンロードされ、CDにコピーされて広まるかも知れません。遂には、アルカイダに接触することすらなしに、テロ攻撃を独習し、単独で実行する者が出る可能性があります。そうなると、事前に摘発するチャンスはほとんどなくなります。旅客機や鉄道などの大量輸送機関はますます危険になります。極めて憂慮すべき時期に来ているのに、米連邦議会がアフガンという地域にこだわっているのは、まったくの皮肉です。


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