北朝鮮の砲撃精度が一部判明

2010.11.29
追加 2010.11.30 9:00


 朝鮮日報に、北朝鮮軍の砲撃の精度に関する記事が載りました。記事をごく簡単にまとめました。

 北朝鮮軍は1回目に約150発、2回目には約20発の砲撃を行いました。初期段階で、自走砲部隊は2門が損傷したものの、致命的な打撃を受けたものはありませんでした。

 北朝鮮軍が撃った砲弾のうち約60発が延坪島内に、残りの90発は海に着弾したとされます。海上に着弾した砲弾は主に北西部の海上に、島の南方の海上には1〜2発ほど着弾したとされます。島内に着弾した砲弾の中には、不発弾が数個ありました。

 韓国軍関係者などによると、延坪部隊のK9自走砲は、島の西端から内側に約150m以上の位置に50〜100m間隔で配備されていました。つまり、北朝鮮軍の射程11〜15kmにおける砲弾の誤差は少なくとも150m以上です。

 軍関係者によれば、砲弾の誤差は、前後方向に比べ、左右方向の方が小さいので、延坪島を攻撃した北朝鮮軍の砲撃の正確度は、素晴らしいといえる水準ではないと言います。

 韓国軍の野砲は射程10kmでは平均で前後に30〜40m、左右に
4mメートルの誤差とされます。


 まず、この記事から韓国軍の自走砲部隊が演習を行った場所を探してみたのですが、下の条件に合致しそうな場所が1ヶ所しかありません。

  • 西岸から150mにある
  • 南南西4.8kmの洋上へ、島民に危険なく発砲できる

 それは私が「韓国軍施設12」とした場所です(関連記事はこちら)。当初、弾着の特徴から「同6」「同7」が狙われたと考えたのですが、まったく違った可能性があります。この推測が正しいのかは、自分でも確信できません。しかし、海上に落ちた砲弾の多く北西部の海上に落ちたという条件には合致します。また、「12」から南南西4.8kmは、島の南東にある小島から弾着を観測できる位置にあります。ここに観測員を置いて、砲撃を評価すれば、航行禁止区域が南西部だけに限定され、民生に最小限度の影響を与えるだけで済みます。

推定砲撃地点から南〜南南西4.8kmの範囲
地図は右クリックで拡大できます。

 これだけで結論を出すことはできませんが、この推測が当たっているとすれば、北朝鮮は砲撃が下手すぎるというものです。誤差150mは見積もりとして小さすぎます。

 本題に入ります。朝鮮日報の記事は少し誤りを含んでいます。

 北朝鮮はロケット砲を使ったことが分かっています。おそらく、ロケット砲は誘導装置を持たない、旧式の機種です。比較のために用いられたのは榴弾砲の数字です。両者を比較するのは不合理です。ロケット砲は、広い範囲を攻撃するのに用いる兵器で、旧式の機種は大量に撃ち込んで精度不足を補います。榴弾砲なら周到な調整を用いて、味方部隊のかなり近くを砲撃することがありますが、旧式のロケット砲には無理なことです。もっとも、それにしても弾着が拡散しすぎであり、精度が非常に悪いのはその通りです。

 むしろ言うべきは、この日、自走砲部隊は60発を撃つ実弾演習を行っており、北朝鮮軍は目標の位置を確認する余裕が十分にあったことです。逆に韓国軍は砲火にさらされる中で応射しました。両軍は戦いの条件がまったく違い、北朝鮮が一方的に有利でした。一般に砲撃は時間をかけた方が精度が高まります。

 当サイトで紹介しているウォーゲーム「TacOps4」のルールはこういう事情を反映し、時間をかけると間接砲撃の命中精度が高まるようになっています。

 これまでの情報を見ると、緊急事態の中で、韓国軍は正確な砲弾を敵陣に叩き込んだ可能性があります。

 韓国軍の弾着の調査報告は公開されなくても、北朝鮮軍の陸地への着弾については公開しても軍事機密を危険にさらすことはありません。今後、調査結果が公表されれば、さらに詳しく検証します。



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