韓国軍の反撃は弱すぎたか?

2010.11.25

 延坪島砲撃事件に関して、これまでに分かったことをまとめます。

 military.comによれば、バラク・オバマ大統領がABCニュースで延坪島砲撃事件について初めて語りました。

 「韓国は我々の同盟です。それは朝鮮戦争以来です」「そして、われはその同盟の一部として、韓国を衛責務を固く約束します」。大統領は軍事的オプションについては答えませんでした。オバマ大統領はインタビューで「我々は攻撃を強く非難し、我々は北朝鮮に圧力を加えるために国際社会を結集しているところです」と述べ、特に中国の助けを求めました。大統領は、この地域のすべての国は「これは、深刻で進行中の脅威だと知らなければなりません」と言いました。

 匿名の米当局者はワシントンと北京の米当局者は中国に、朝鮮半島だけでなく地域全体の安定を脅かすと主張し、攻撃を非難するよう強く要請したと言いました。

 オバマ大統領は知らせを聞いて午前4時に起こされました。彼は経済に焦点を絞ったインド訪問を行い、日没後にホワイトハウスに戻っていました。

 米国務省報道官は、アメリカは北朝鮮に慎重なアプローチを取るだろうと言いました。同時に、エネルギー戦略を描写するので匿名を希望する別の政権当局者は、ホワイトハウスが北朝鮮の瀬戸際政策に褒美を与える外交のサイクルを止めることを決めたと言いました。

 米国防総省広報官は、新たな装備や人員を韓国へ再配置していないと言いました。military.comが報じているとおり、空母ジョージ・ワシントンをはじめとする米艦隊が演習のために派遣されますが、それらはこの再配置には含まれていません。

 朝鮮日報が応戦の内容について報じました。

 韓国合同参謀作戦本部は24日、「韓国軍がK9自走砲で応射をした際は、北朝鮮軍の海岸砲を標的にしたのではなく、海岸砲部隊の建物を標的にした」「北朝鮮の海岸砲は通常、横穴を堀り、そこから射撃しているので、(曲射砲である)K9自走砲では海岸砲を直接攻撃しにくい。このため、海岸砲の陣地を無能力化するのではなく、建物や周辺にあるほかの施設を無能力化し、海岸砲を使用できないようにする策を講じている」と述べました。記事は海岸砲が2度砲撃を行った原因がこれであると書いています。

 なお、延坪島に配置されていたK-9自走砲は6門だったことが朝鮮日報の記事で分かりました。

 朝鮮日報の記事は短期間で会員以外には読めなくなるので、通常はリンクを張っていませんが、事件に関係する兵器や北朝鮮の海岸砲台を示したイラストがあったのでリンクを張っておきます(こちら)。


 オバマ大統領のコメントは妥当な内容で、初期対応としては悪くありません。表立ったところでは、こうした表現に止めておくべきです。

 注目すべきは、オバマ政権が北朝鮮の瀬戸際政策に褒美を与えないことを、政策としても決定したという部分です。先日、大統領広報官が同じことを言いましたが、単なるコメントではなく、政策として決定した点が重要です。

 韓国軍の応戦により、海岸砲は大きな被害を受けなかったと推定できます。韓国軍の応戦の後に再び砲撃したのには損害が出ていないことを示すという意味があります。80発の内40発を茂島に向けたとしても、施設をすべて破壊することはできませんし、砲そのものは破壊できません。茂島は高いところでも標高30m程度です。地下砲台を造っても、そんなに大きなものはできません。航空機を用いた空爆なら、砲台は完全に破壊できます。Google Earthの茂島の衛星写真は不鮮明ですが、ここには軍隊しかいないようです。韓国がその気になれば、茂島の砲兵部隊は壊滅できます。

 ケモリの位置は未だに確認できていませんが、茂島から2km程度ということですから、茂島の北にある本土の海岸「温陽」付近のことかも知れません。ここの岬には、砲兵部隊の陣地らしい場所があります。ここも周囲には民家はありませんから、攻撃しても民間人の死傷者は少ないでしょう。

 韓国では軍の応戦が手ぬるいとの批判が出ています。確かに、自走砲6門では少なすぎます。しかし、対砲撃レーダーを常に動作させていなかったことの方が問題かも知れません。これがあればもっと早くに反撃できた可能性はあります。

 気になるのは、李明博大統領が判断を迷っているように見えることです。紛争の行く末を暗示するかも知れないので、李大統領の表情は今後注目していく必要があります。

 今後、大事になるのは常に冷静でいることです。韓国では報復を叫ぶ声があがっていますが、こんなのに耳を貸してはなりません。特に犠牲者の声は心情的に同情できても、同調してはなりません。犠牲者やその家族は感情的になっており、それを解消するために過激な意見を主張しがちです。それに国家全体が引きずられると、さらなる悲劇が待っています。政治的な必要から、北朝鮮を激しく批判する局面があったとしても、それは計算の上で行われるべきなのです。

 どんな選択肢をとるにせよ、中国の態度が鍵になります。またしても中国は北朝鮮を庇うつもりで、中立の立場を装いながら、韓国とアメリカが武力を行使するのを牽制しています。こうした状況で武力を行使しても、中国軍が北朝鮮を武力で援護するだけです。国際社会が中国に圧力を加えていくことが重要なのは当然ですし、北朝鮮が暴走すれば、米軍が北朝鮮を警戒するために中国周辺で活動することになることを明確にしなければなりません。それが中国に圧力を加え、北朝鮮への圧力につながるように仕向ける必要があります。

 韓国は西海5島地域の防衛を強化すると発表しましたが、これだけでは不十分です。軍事の常識として、北朝鮮は同じ手は使いません。哨戒艦撃沈のあとは砲撃できたように、別の方法を使って脅してきます。軍事的なオプションとしては攻撃を行った場所に局地的に集中的に反撃する方法があります。これは韓国軍だけで行い、それ以上に戦争を発展させることは避けます。倍返しどころか、その場にいる敵を完全に殲滅するまで攻撃を継続するという方法です。その際、攻撃と同時に対象地域を発表し、限定的な攻撃であることを示します。これは北朝鮮内に韓国軍の戦力の強さを示し、内部の動揺を誘う効果がありますし、中国には紛争がエスカレートするかも知れないという不安を与え、重い腰を上げさせるかも知れません。同時に、博打という戦争の本質的性格は、事態がさらに悪化する危険も持っています。安全な軍事的オプションなどないのです。

 しかし、韓国は一気にここまで行く気はないはずです。開城工業団地の引き揚げや支援の打ち切りなど、経済封鎖を優先させると思われます。韓国を攻撃すれば人道的支援も打ち切ると、逆に北朝鮮を脅すのです。これには韓国内の北朝鮮のシンパが抵抗すると予想されます。

 たとえ、北朝鮮が攻撃をエスカレートして、日本を攻撃したとしても我々は冷静でいなければなりません。しかし、尖閣諸島での中国漁船との衝突事件を見ても、そんな冷静な対応は今の日本人には無理でしょう。特に腰の退けた菅政権で国民が不安を感じる今、強硬な意見はより出やすい状況にあります。扇動的な発言をする者が増えている中、それは一層難しいと思われます。

 デマには一層注意してください。「国防非常態勢発令、予備軍および民間防衛隊員、所属町役場に召集」という偽メールを発信した男が韓国当局に逮捕されました。今後、この種のデマが増えるはずです。常に軍事常識を元に情報を分析し、おかしな情報に引っかからないようにしてください。


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