ビデオ非公開は中国政府の要請?

2010.11.15

 日経BPのウェブサイトの「田原総一朗の政財界『ここだけの話』」に中国漁船衝突事件のビデオ漏洩事件に関する意見「尖閣ビデオ、『流出』で結果的にはよかった」が掲載されました。(記事はこちら

 その内容には疑問があります。まず、最初に気になる部分を示します。

 尖閣諸島沖で9月7日、海上保安庁の巡視船2隻に中国漁船が2度にわたって衝突。民主党政府は当初から、このビデオ映像は公開しないと言ってきた。
 理由は二つある。一つは、漁船船長が処分保留のまま釈放されており、事件が決着していないからというもの。しかし、それは表向きの理由だ。
 本当の理由は、中国政府が「絶対にビデオ映像を公開しないでほしい」と民主党政府に要請してきたからである。

 民主党が「当初から」ビデオ映像を公開しないと言ってきたというのは事実と反します。事件が起きた9月7日から約1ヶ月後の10月8日、参議院本会議で、みんなの党の水野賢一氏が次のような質問をしています。

 このところ、総理への質問に対し、仙谷官房長官が答弁するのが大変目立ちます。陰の総理と呼ばれるまさに仙谷時代ではないですか。もし、衆議院の合意に基づいてビデオが国会に提出されないのであれば、我が党としては、参議院においても国政調査権に基づき、正式な手続を取りたいと思います。総理、何を恐れているのですか。公開を検察の判断に任せるのではなく、あなたの決断をお聞きしたいのです。お答えください。

 これに菅直人総理が次のように答えています。

 衝突時のビデオの公開について御質問をいただきました。
 尖閣諸島が歴史的にも国際的にも我が国固有の領土であることは全く疑いのないところであり、現に我が国が有効に支配をいたしております。今回の事案については、必要な場面において国際社会に対し、しっかりと我が国の立場を説明してきたところであり、今後もこの方針に変わりはありません。
 ビデオの公開については、現在の捜査の状況及び国会等の要望を踏まえて、捜査当局において適切な判断がなされると思っております。

 この質疑が行われた時点では、海保はビデオについて、特に秘密扱いとしていませんでした。馬淵国交省が鈴木海保長官にビデオの保護管理を指示したのは10月18日です。それまでは検察が映像を公開するかどうか決めることになっていたわけで、国会議員もそう認識していました。船長は起訴される可能性もあり、ビデオ公開はその後での話でしょうが、田原氏がいう「当初」がどの時点なのかは不明確です。

 もっとも、内閣が検察に内密に指示し、実質的に非公開とした可能性はありますが、船長の釈放ですでに検察に対する内閣の圧力が知られている中、再度の強権発動は難しいと見ることもできます。

 さらに、中国政府がビデオを公開しないよう日本政府に求めたという話は本当なのかという疑問があります。これが本当なら、話はまったく違ってきます。他国がこんなことにまで口を挟むことはできませんし、それに日本政府が応じるとは考えにくいのです。もし、事実なら、これは菅政権の存続を揺るがすほどの大スキャンダルです。しかし、私はこういう事実をこの記事以外で目にした記憶がありません。それに、この中国からの要請が、どの段階でなされたのかも、記事には書かれていません。要請の時期は、事件を考える上でとても重要です。

 なた、事実なら大変なことなのに、田原氏はあっさりと触れるだけで済ませていす。野党は、なぜこの事実を国会で与党に突きつけないのでしょうか?。記事に書かれているとおり、中国政府からの抗議がないことは、こんな要請がなかったことの証拠のようにも見えます。政府から漏れようが、他から漏れようが、政府が収集した情報が外部に漏れたのなら、中国政府は謀略を疑い、抗議してくるはずです。

 田原氏は、もっと明確な証拠を示す必要があります。自分が言うのだから間違いがないでは説得力がありません。田原氏に限らず、日本のメディアは読者が検証不能な形で情報を流すので困ります。記事が真実ならよいのですが、そうでない場合は読者が迷惑を被るということを、マスコミはもっと考えるべきです。

 今回の事件では、様々なデマが流れました。これはデマの流れ方について、我々が学ぶ格好の機会かも知れません。怪しい情報をメデイアに流した人物、団体はメモしておきましょう。こうした人は繰り返しデマを流す傾向があり、今後も同じことをやる可能性が高いのです。今回は、それなりの立場の人たちまでが、中国人船長の逆襲を主張した点が特徴的です。



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