魚釣島に空挺作戦は可能か?

2010.10.4

 また、産経新聞に首を捻る記事が載りました。まずは、その記事「日米軍事演習で『尖閣奪還作戦』 中国の不法占拠想定」(3日付)の問題部分を読んで下さい。

演習の第1段階では、あらゆる外交上の応酬を想定しながら、尖閣諸島が中国軍に不当占領された場合を想定。日米両軍で制空権、制海権を瞬時に確保後、尖閣諸島を包囲しながら上陸部隊の補給路を断ち、上陸部隊を兵糧攻めにする。

第2段階では、圧倒的な航空戦力と海上戦力を背景に、日米両軍の援護射撃を受けながら、陸上自衛隊の空挺部隊が尖閣に降下し、投降しない中国軍を殲滅させる。


 上の記事の、どこが気になるか分かりますか?。

 本当に防衛省は、魚釣島で空挺作戦をすると言ったのでしょうか?。

 記者が「降下」を、バラシュートを使う「エアボーン作戦」と、ヘリコプターを使う「ヘリボーン作戦」のどちらの意味で書いたのかは分かりません。しかし、魚釣島は地理的位置はともかく、地形はどちらの作戦にも不向きです。

 魚釣島(kmzファイルはこちら)は、沖縄本島から420km、石垣島からは160kmの距離にあります。ヘリコプターや輸送機は機種によりますが、1,000〜2,000kmの航続距離があります。石垣島を発進源として、魚釣島はヘリコプターを使う作戦が行える位置にあります。できれば、魚釣島沖に進出した空母から発進する方が作戦はやりやすいのですが、日米間でそういう訓練は行われていません。

 南北に約1.2km、東西に約3.5kmという魚釣島の面積と形状は空挺作戦を行うために、最小限の数値を持っています。風が強すぎると、バラシュート降下した隊員が空中を流され、海に落ちて溺死する危険もあるものの、不可能ではない、面積と形状は持っています。

 ところが、島には開墾地がほとんどないのです。

 南部には高い崖があり、島が降下に利用できるとしても崖から北側だけです。1km以上ある島の幅も、実際には800mくらいしかないことになります。

 利用できそうな場所も、起伏がある上、ほとんどがほぼ全域を、ビロウなど、背の高い樹木が覆っており、ヘリコプターの着陸やバラシュートによる降下を阻んでいます。特に、バラシュート降下した空挺隊員は、木に引っ掛かり、負傷したり、行動不能になるでしょう。

 しかも、そこには中国軍の生き残りがいるかも知れないという前提です。彼らは島全体に掩蔽壕を築いて、その中に籠もっていると仮定できます。その真上に降下するのは、法外な話です。誤解している人がいるかも知れませんが、空挺作戦は敵がいるところではなく、部隊が降下・集合を終えてから接敵するように、敵陣から少し離れたところを降下地に選ぶものです。

 こんな危険な作戦をしなくても、自衛隊には適切な装備があります。ホバークラフト「エアクッション艇1号型」です。エアクッション艇は標準の構成で人員を180人も運べます。これをドック型揚陸艦で魚釣島沖合へ運び、砲爆撃の支援の下で、人員・装備品を乗せて海岸に侵入させるのが、普通のやり方です。東端の海岸は上陸適地です。ここから西へ向けて、虱潰しに掃討していくのが、作戦の骨子になります。

 だから、本当に防衛省が空挺作戦と言ったのか、記者が想像で書いたのかが知りたくなる訳です。いずれ、演習が行われれば、真相が分かるでしょう。本当に演習が行われるとすれば、その理由は一つだけです。米軍も自衛隊も、そんな作戦をやる気はなく、意図的に非現実的な想定を設定したのです。



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