ウッドワード:ゲーツの後任はパウエルか?

2010.10.3

 military.comによると、「オバマの戦争(Obama's Wars)」の著者ボブ・ウッドワード氏(Bob Woodward)は、元統合幕僚議長・国務長官のコリン・パウエル(Colin Powell)が、ロバート・ゲーツ国防長官の後任に承認される可能性を指摘しました。

 パウエルの国防大臣就任について書いた部分だけ紹介します。

 ウッドワード氏はMilitary.comとのインタビューの中で「私は(オバマ大統領が)コリン・パウエルに傾いているという暗示を受け取りました」と語りました。「オバマはこの戦争に何かよいニュースを必要としています」。また、彼は圧倒的な戦力を用いるパウエル・ドクトリンが、戦争をより早くより決定的に終えるために、さらに多くの兵士を要求するかも知れないパウエルの衝動を意味する可能性を指摘しました。


 パウエルをゲーツ国防長官の後任にすることには賛成です。イラク侵攻以降、パウエルは挫折の連続でした。「イラクが大量破壊兵器を持っている」と、CIAの誤った情報を国連に報告してしまい、自らが反対した軍事作戦を後押ししてしまいました。それを自らの手で正す機会を与えられれば、彼は国家への最後の奉仕としてできる限りのことをするでしょう。

 しかし、ウッドワード氏が言うように、彼がさらにアフガニスタンに増派を考えるかどうかは疑問です。パウエル・ドクトリンは、湾岸戦争のような武力衝突には有効ですが、現在のアフガン戦のような戦いには向いていません。湾岸戦争の場合、イラク軍の装甲部隊を破壊すれば、戦争は終わると見込めました。対テロ戦の一部でしかないアフガン戦で、いくら兵力を投入しても、すべての出口を封鎖できない以上、敵には常に逃げられる場所があるのです。

 湾岸戦争の場合、イラク軍が決起したために、彼らは占領したクウェートを維持するための戦いから逃げられなくなりました。逃げれば、世界に敗北をさらします。よって、砂漠に展開した装甲部隊をハイテク兵器で吹き飛ばせば、多国籍軍は勝てたのです。そのためには、大量の部隊を投入し、敵を圧倒することが重要になります。空爆で事前に装甲部隊や補給部隊を攻撃し、十分に戦力を低下させた上で、「敵の正面を攻撃するな」という古来からの兵法を用い、主力を戦線左端から進撃させ、クウェートとイラクの連絡線を断つように移動させました。敵主力は正面から来ると考えていたイラク軍は面くらい、対策を取る前に、背後に回り込まれてしまったのです。これにより、サダム・フセインが設定した「サダム・ライン」を正面から攻撃するよりは、遙かに簡単にクウェートを奪還できました。

 しかし、ここで意外な問題が起こりました。クウェートを守備するイラク軍部隊の判断ミスで、守備隊が幹線道路を使って撤退するという事件が起こりました。これを発見した多国籍軍は、撤退する部隊へ激しい砲爆撃を行い、のちに「死のハイウェイ」と呼ばれたほど多数が破壊されました。この時、確かサダム・フセインが降伏を宣言し、撤退する部隊を攻撃する多国籍軍を「恥知らず」と批判し、日本のマスコミも「白旗を掲げる者を攻撃した」と米軍を非難しました。これは批判者が間違っています。クウェートの部隊を撤退させたのは、イラクにいる部隊に合流させ、再編成し、戦いを続けるためです。本当に降伏するつもりなら、クウェート守備隊は、その場で投降する意志を示す必要がありました。後退すれば、それは後方にいる部隊と合流するものと判断されるのです。フセインの降伏宣言は、それを容易にするための方便ですから、耳を貸すべきではないのです。

 「死のハイウェイ」により、ブッシュ政権は国際世論を考慮し、早期停戦を行いました。この時、それを進言したのが、パウエルだったはずです。これ以上の殺戮を続ければ、国際社会がアメリカに反感を持つと考えてのことでした。

 結果から見ると、このためにフセイン政権は残存し、勝ったはずのブッシュ政権はビル・クリントンに選挙で敗れました。当時、国防長官だったディック・チェイニーは、湾岸戦争でフセインを倒しておくべきだったと後悔しました。同時多発テロは、この念願を成就させる絶好の機会でした。

 こんな訳なので、アメリカが正しい軍事的選択をできなかったのは当然でした。パウエルは、常に必要な戦力を派遣するというパウエル・ドクトリンがアフガンには馴染まないことを分かっていると、私は考えます。彼は、命じられたことを実行することに長けただけの凡庸な指揮官ではなく、結果も考えて行動するタイプです。この点では、実戦部隊を指揮する機会に恵まれなかったことが、むしろ幸いしています。多分、パウエルはオバマ大統領がすでに命じている方法でアフガンから撤退する方法を選択すると、私は想像します。



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