NATO軍がタリバン代表団の移動を支援

2010.10.18

 military.comによれば、デビッド・ペトラエス大将(Gen. David Petraeus)は、ロンドンの王立統合防衛・安全保障研究所(the Royal United Services Institute)で、連合軍はタリバンの代表団がアフガニスタン政府との和平会談のためにカブールへ行くのを許したと言いました。

 「アフガン政府の最高レベル、あるケースでは、アフガン政府に関係している他の国と接触した、極めて高位のタリバン指導者がいます」「実のところ、これらの討議は準備段階と性格付けられるだけです」「彼らは確かに交渉と呼ばれるレベルへあげたがっていませんでした」。
 
 匿名希望の米当局者は、2カ月前に準備的な討議があり、トップレベルではない中級から上級の指導者が関与したと言います。

 ペトラエス大将は、タリバン代表団が、連合軍部隊により安全な通行を与えられたことを示唆しましたが、会合の支援のために輸送やその他のNATO軍施設を提供したことを含むのかは明らかではありません。

 あるタリバン代表は、前ナンガルハル州(Nangarhar province)のタリバン知事、ムラー・アブドル・カビル(Mullah Abdul Kabir)の可能性があります。この接触に詳しい2人のアフガン筋によると、カビルは仲介役を通してカルザイ大統領と接触しました。両筋とも、タリバンや国際社会との関係を危険にさらしたくないために、匿名で話しました。

 タリバンはそうした討議に公式の代表が携わったことを否定し、アメリカ人が去るまでは戦うと言っています。「私を信じなさい。公式の使者は来ていません」とタリバンの前パキスタン大使アブドル・サラム・ザイーフ(Abdul Salam Zaeef)は言います。タリバンは米主導のNATO軍が武装勢力の精神を弱めようとしていると主張しました。タリバン広報官カリ・ヨウセフ(Qari Yousef)は「いわゆる政府と対話したタリバンは我々と関係がありません。これはタリバンの士気を下げるためのプロパガンダですが、うまく行かないでしょう」と言いました。

 タリバン戦士アマヌーラ・ムジヤヒッド(Amanullah Mujahid)は、会談のニュースを聞いたとき、仲間と共に落胆したと言います。「我々はそれに期待していなかったし、我々の士気を傷つけました」。タリバン指導部が会談を否定するメッセージを彼の指揮官に送ったとき、彼らの精神は高揚したと言います。「いま、NATO軍が我々を分離するために、そんなプロパガンダを使ったに過ぎないことを知っています」。ガズニ州(Ghazni province)の匿名希望のタリバン戦士は、タリバン指導部の評議会「クェッタ・シューラ(the Quetta Shura)」が「タリバン側からは誰も会談に行っていません」という無線メッセージを送ってきたと言いました。

 パキスタン筋は、アジア・タイムズがタイムズのナンバー2,ムラー・アブドル・ガニ・バラダル(Mullah Abdul Ghani Baradar)をパキスタン政府が釈放したという報道を否定しました。バラダラは2月にCIAとの合同の急襲で逮捕されていました。交渉のテーブルにつかせるためにパキスタンの意向で釈放されたとされます。アフガン当局者は、バラダラがカルザイ大統領と接触したと言いました。アフガン人は、パキスタン人が、和平協定から望んだものを得るまで、こうした接触を断つためにバラダラを逮捕したと考えています。

 米高官は長らく、武装勢力が勝利を信じる間は、タリバンとの和平交渉を予期しないと言ってきました。一部の政権当局者は、カルザイ大統領が提案した和平模索に冷淡だと言います。それはロバート・ゲーツ国防長官(Robert Gates)とヒラリー・クリントン(Hillary Rodham Clinton)が、和平交渉を支持したときに公的に変わりました。


 記事はこのあとで、NATO軍の攻勢の成果が上がったために、不利だと感じたタリバンが交渉に転じたのかどうかについて、様々な意見を紹介していますが、省略します。 興味のある方は読んでください。

 それぞれの人々の見解が違い、和平交渉が存在するのかどうかを考える必要があります。西側は以前から、タリバンと交渉していると言い、タリバンは否定し続けてきました。

 タリバン指導者バラダルは、今年3月に逮捕されたと報じられていました(関連記事はこちら)。この記事からも、各方面がバラバラに行動している可能性が感じられます。

 実は「Obama's Wars」にも、そのことが書かれています。米国務省、米軍の陸海空軍、CIA、アフガン政府、パキスタン政府は、それぞれが別の戦いを戦っているとウッドワードは書いています。大統領選挙のあと、当選者となったバラク・オバマに会ったマイク・マレン統合幕僚議長は「アフガン戦は何年も資源不足です」「実を言うと、戦略がないのです」と言いました。

 何年も感じてきたことですが、イラクとアフガンでの戦いは、単に戦いを続けているだけで戦略が不在です。このことは、2003年にジェフリー・レコード教授により指摘されていたことでした。ブッシュ政権が言う「テロリズムとの戦い」を実現する戦略はアメリカにはないということです。

 しかし、本土を攻撃された以上、アメリカは何かをしなければなりません。日本に真珠湾を攻撃されたアメリカは、ドーリットル爆撃隊を送り込んで日本の本土を空爆して見せなければならなかったのです。損害ばかりで戦術上は成果のない爆撃でしたが、米国民は反撃の報に熱狂しました。それと同じことが繰り返されました。「さあ、反撃の始まりだ」と米国民は考えました。私は「地獄の始まりだ」と思いました。

 アメリカがタリバンとの交渉を公表しているのは、何らかの成果がないと政治的な勝利につながらないからです。紛争を収めて、中間選挙や大統領選挙の勝利につなげないと、米政界での成功はありません。明らかに、ペトラエス大将とクリントン国務長官、ゲーツ国防長官は、タイミングを合わせて声明を出したのです。しかし、交渉を公表されると、タリバン側は戦士の士気が下がるので困ります。それによって、タリバンが交渉から去る危険もあります。それでも、米政府は、まず国内に与える影響を考えます。米政府にとっては、米国民が政府に期待をつなげるなら、何でもよいのです。もともと、タリバンとの和平は期待が薄いと言えます。タリバンの政治参加を認めれば、彼らの極端な法律を実践しようとするでしょう。そんなことはアフガン政府にも米政府にも認められません。タリバンは、懲罰のために女性の鼻を切り落とすのです。

 今回明らかになった和平交渉が成果を生むとは考えにくいのです。



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