マクリスタル大将の報告書が公開

2009.9.22
追加・修正 2009.9.23



 ワシントン・ポストが、マクリスタル大将が大統領に提出したアフガニスタン戦の報告書を一部差し控えた上で公表しました。

 66ページの報告書はpdfファイルでウェブサイト上に公表されました(pdfファイルはこちら・テキスト版はこちら)。テキスト版には若干の誤字等があるので注意して読んでください。この全文を紹介するのは無理なので、5ページの「指揮官の要旨(Commander's Summary)」の全訳を掲載します。しかし、大統領に提出されたばかりの機密指定の文書を、一部を非公開の上とは言いながら公表してしまうとは驚きました。国防総省とホワイトハウスのどちらが書面を提供したのかは不明ですが、国防総省は将来の作戦を危険にさらす恐れがある部分を公開しないことで公開を認めています。軍と大統領府のいずれかが、この書類が国民の目に触れることを望んだのです。大抵は大統領府からこうした情報が出るのですが、出所によって、これが公開された理由が推測できます。私は大統領府がこれを公開することで、世論の喚起を狙っているのだと考えます。オバマ大統領はこの報告書が尋ねたことに一つしか答えていないと考えており、世間が彼の考えを後押しするように公開を決めたのではないかと想像するのです。この報告書は、かなり頭の柔らかい軍人が書いたものと感じましたが、まだ杓子定規な印象があるのです。悪くいえば、退屈な優等生の作文に過ぎません。いま必要なのは勝負師の動物的な勘であり、これは米軍の上級将校には求めがたいものです。

 それから、military.comによると、オバマ大統領は核兵器削減のために抜本的な評価を行うよう軍に命じました。大統領は国防省が提出した「核兵器配備の評価」の初稿があまりにも内気であるとして却下し、将来的に核兵器の全廃するという目標に合致した広範囲の選択肢を要求しました。この記事で、核兵器削減に関して米軍が消極的であることが明らかになりました。また、これが軍と大統領府の対立点になっていることは、アメリカの政治を観察する上で注目すべき点です。アフガン戦での対立と併せて、オバマ政権を見る上で重要なポイントとして理解すべきです。


以下は、2009年8月30日にゲーツ国防長官を経てオバマ大統領に提出された「Commander's Initial Assessment」の「Commander's Summary」(1-1〜1-4)の全訳。

指揮官の要旨

 アフガニスタンの危険度は高いです。アルカイダを分裂し、分解し、最終的に打ち負かし、アフガニスタンに者津のを防ぐという、NATOの総合的戦略的政治軍事計画とオバマ大統領の戦略は、我々がなさなければならないものの明確な方針を提示してきました。アフガニスタンの安定は責務です。もし、アフガン政府がタリバンの手に落ちたり、多国籍のテロリストに反撃する能力が不十分なら、地域の安定にとって明らかに意味して、アフガニスタンは再びテロリズムの基地となり得ます。

 アフガニスタンの状況は深刻であり、成功も失敗も当然のことと考えることはできません。少なからぬ努力と犠牲がいくつかの前進において結果を出しましたが、多くの指針は全般的な状況は悪化していることを示唆しています。我々は回復力が早く成長している武装勢力に対面しているだけでなく、彼らの政府と国際社会の両方において、我々の信頼性をむしばみ、武装勢力をつけあがらせるという、アフガン全土にわたる信頼の危機もあります。その上、我々の決意が疑わしいという認知がアフガン人を武装勢力と対決する我々と手を組むのを躊躇わせています。

 成功は達成可能ですが、単に過去の戦略を一層努力するとか「倍掛け」することでは達成できないでしょう。追加の資源が必要ですが、部隊や資源の必要条件に焦点をあてることは完全に的を失するでしょう。このアセスメントの効果を損なう鍵は、我々の戦略と我々が思考して実行する手法に対する重要な変更による切迫した必要性です。

 NATO.の国際治安支援部隊(ISAF)は、アフガン人に信頼され、持続できる新戦略を必要としています。この新戦略はまた、アフガンの人々の支援を得て、彼らに安全な環境を提供する、民と軍を統合した対武装勢力作戦を通じて適切に準備され、実行されなければなりません。

 この戦略を遂行するために、我々はアフガン国家保安軍(ANSF)の有効性を成長発展させ、統治の重要性を高めなければなりません。我々はまた、大衆が脅威を受けているこれらの地域に資源を優先し、武装勢力から主導権を得て、成功を通じてそれを見せる揺るぎない責任を知らしめなければなりません。最終的に、我々は戦いの性質を再定義し、その影響と時間の重要性を明確に理解し、我々の作戦上の文化を変更しなければなりません。

戦いの再定義

 これは異なる種類の戦いです。我々は比類なき複雑さという環境の中で古典的な対武装勢力作戦を遂行しなければなりません。3つの地域の武装勢力は、30年間の闘争で損害を与えられた国の中で、地域の権力闘争の動的な混合を伴って交差してきました。これは単純な解決や迅速な修正を拒否する状況を作りました。成功は包括的な対武装勢力(COIN)作戦を必要とします。

 我々の戦略は地形を奪取したり、武装勢力を撃破することに頂点をあてられず、我々の目標は大衆でなければなりません。人々の支援を得るための戦いの中で、我々が行うすべての活動はこの努力を可能にしなければなりません。住民はこの複雑なシステムの中で我々がテコ入れできたり、する必要がある強力な俳優をも意味します。彼らの支援を得るには、人々の選択と必要性をよりよく理解する必要があります。しかしながら、進歩は回復力のある武装勢力と政府および国際な連合における信頼の危機という二重の脅威によって妨害されます。彼らの支援を勝ち取るために、我々はこうした脅威の両方から彼らを守らなければなりません。

 大勢がアフガニスタンでの紛争を理念の戦争と描写し、そしてそれを私は真実だと信じます。しかしながら、これは、我々がどのように住民と交流を図るかや、どれだけ早く物事を進歩させるかといった、行動が覚知を生じるところの「功績に拠点を置く」情報環境です。覚知を変える鍵は、基礎をなす真実を変えることに横たわります。我々は、我々が我々の信頼性を危険にさらさないように、我々が望むものと混同してはなりません。

時間の有用性

 アフガニスタンにおける我々の努力における時間の影響は成果が正しく評価されておらず、我々はそれについて考える新しい手法を必要としています。

 第一に、戦いは武装勢力の「戦いの季節」によって動力学的に動かされる、年間周期の作戦ではありません。むしろ、それは人々の支援を勝ち取るために、しばしばほとんど暴力が死に行われる一年を通した戦いです。住民を武装勢力の強要と脅迫から守ることは、持続的なプレゼンスをと深刻な後退の危険を冒さずに中断することができない集中を必要とします。

 第二に、そして一層重要なことに、我々は短期と長期の両方の戦いに直面しています。長期戦は忍耐と献身を必要とするでしょうが、私は短期の戦いが決定的だろうと信じています。近いうち(次の12ヶ月)、アフガンの保安能力が成熟する間に、主導権を手に入れ、武装勢力の勢いを後退させるのに失敗すれば、武装勢力をもはや打ち負かす可能性はないという結果をもたらす恐れがあります。

作戦上の文化の変更

 脅威がそうであるかも知れないのと同じように恐るべきことに、我々は問題をより難しくします。ISAFはCOINのために不完全に配置された通常戦力で、現地語や文化の経験がなく、連合しての戦争に固有の挑戦と戦っています。この本質的な不利は、現行の我が作戦上の文化と、我々がどう作戦を行うかによって悪化させられます。

 我々自身の部隊を守ることに熱中し、我々は我々を我々が守ろうとしている人々から物理的に心理的に遠ざける方法で作戦を行ってきました。その上、我々は民間人の犠牲や不必要なコラテラルダメージを生む戦術的な勝利を追いかけることで戦略的な敗北の危険を冒しました。武装勢力は我々を打ち負かせませんが、我々は自らを打ち負かせるのです。

 任務を達成することは、2つの原理の領域に特別な焦点をあて、我々がどう作戦を行うかにおける劇的な変化を通じて、基本の上に新たな注視を要求しています。

  1. 人々と結びつくために作戦上の文化を変更する。私は我々が住民とより緊密に相互協力しなければならず、安定をもたらす作戦に焦点をあて、彼らを武装勢力の暴力、汚職、強要から守らなければならないと信じます。
  2. 努力と指揮の統合を向上させる。我々は努力をよりよく統合するのを成し遂げるために、組織上の構造を大幅に修正しなければなりません。我々はISAFと国際社会の中での調整を向上させるために関係を再統合し続けるでしょう。

住民に目を向けた新戦略

 これらの基本を理解することは成功のために必要ですが、それでは不十分です。任務を成し遂げ、武装勢力を打ち負かすには、我々は4つの主要な柱の上に築き上げられる、適切に準備された戦略も必要です。

  1. ANSFとのより大きな提携を通じて有効性を向上させる。我々は有効性を向上させ、彼らが治安維持作戦を主導するよう準備させるために、ANSFの規模を増加し、あらゆるレベルで根本的に連携を強める成長を加速するでしょう。
  2. 即応的で責任能力を持つ統治を優先する。我々は公式で伝統的な機構の両方を通じて、あらゆるレベルで統治が向上するのを支援しなければなりません。
  3. 主導権を得る。我々に最も緊急なのは、一連の作戦上の局面において、主導権を得て、武装勢力の勢いを後退させることです。
  4. 資源に焦点をあてる。我々は利用可能な資源を、脆弱な住民が最も脅威を受けている、これら重要な地域に優先して配備するでしょう。

 これらのコンセプトは目新しくありません。しかしながら、積極的に実行されれば、それらは我々の有効性にとって画期的になるでしょう。我々は、我々がどのように作戦を行うかや我々がどう考えるかも変えることで、物事を劇的に異なるように、心地悪いほど異なるようにすら行う必要があります。我々がどのように国内を移動するか、我々がどのように戦力を使うか、我々がどのようにアフガン人と連携するか。我々のすべての行動はこの固定観念の変化を反映しなければなりません。世間一般の意見は申請ではなく、安全保障は銃身からは生じないかも知れません。よりよい軍隊保護は直感に反しているかも知れません。それはより少ない装甲と住民からのより短い距離から来るかも知れません。

分析と経験に基づく評価

 私の結論は経験ある軍人と民間人のチームと私の個人的な経験と核となる信念により、厳密な複合的な評価を通じて決められました。私の分析の中心は我々は作戦の環境の複雑性を尊重し、我々の戦略を相応の手法に設計しなければならないという信念です。我々が状況を分析した時、私は次第にいくつものテーマを確信するようになりました。目標は人々の意思であること。我々の通常戦争の文化が問題の一部であること。アフガン人が最終的に武装勢力を打破しなければならないこと。我々は努力の統合の大幅な向上なしには成功できないこと。最後に、人々を守ることは彼らをすべての脅威から保護することを意味すること。

成功のための戦略:資源とリスクのバランス

 アフガニスタンにおける我々の作戦は歴史的に準備が不十分で、今日もそのままです。我々の総力と関連した準備のほとんどすべての局面は成長する武装勢力に遅れを取り、これは歴史的にCOINにおいて失敗する方策です。成功は主導権を得るために不連続の「跳躍」、短期における進歩を証明し、長期の支援を確実にすることを必要とするでしょう。

 資源はこの戦争を勝たないでしょうが、不十分な準備は敗北するかも知れません。資源を与えることは関与を伝えますが、連合に統治されているという認識を避ける一方で、我々は有効なANSFの連携を可能にして、大衆に安全を提供し、する戦力レベルのバランスも保たなければなりません。理想的には、ANSFがこの戦いを主導すべきですが、彼らには武装勢力の成長率の下で、近い将来には十分な能力を持たないでしょう。その間、連合軍は住民の重要な部分を守る橋渡しを行わなくてはなりません。我々がANSFが成長するのを待つならば、現状は失敗を導くでしょう。

 新戦略は現存の資産をよりよく適用することを通じて有効性を向上するでしょうが、追加の資源も必要です。概括的に言えば、我々はさらなる民間と軍の資源、さらなるANSF、さらなるISR(訳註 intelligence・surveillance・reconnaissanceの略)、その他の実現するものが必要です。同時に、その他の資産を再計画し、有効性を向上した時、我々はオフセット量を見出すでしょう。包括的に、ISAFは総合的な連合軍の能力と最終兵力の向上を必要とします。この「適切に準備された」必要項目は、許容できるリスクのレベルで任務を達成する最小限の戦力レベルを定義するでしょう。

間に合わせるために唯一の時

 これは、この戦争の時期において、重要でおそらく決定的な時です。アフガン人は予期した進歩の証拠が得られない8年間のあとで落胆し疲れています。忍耐は当然のことながら、アフガニスタン、そして我々の国の両方で不足しています。時間が問題です。我々はいま負の傾向を反転し、進歩を証明するために行動しなければなりません。

 私はこの新戦略を実行することにおいて多大な挑戦を過小評価しません。しかしながら、我々は主要なアドバンテージを持っています。アフガン人の大多数がタリバンに回帰したいと思っていません。アフガンのワルダク国防大臣との協議の間に、私は彼の言葉のいくつかが洞察に飛んでいることを見出しました。

「勝利は我々の手の中にあり、我々が学んだ教訓に基づいて、我々自身を再び付託し…私はメディアが発展させた、アフガニスタンは「帝国の墓場」であり、アメリカとNATOの努力は失敗する運命にあるという神話を拒絶します。これは敵の宣伝キャンペーンの主要な中心でしたが、アフガン人は決してあなたたちを占領者として見ていません。外国人の概念で政府を押しつけたロシア人と違って、あなたがたは民主的な憲法を書き、我々自身の政府を選択できるようにしました。国を破壊したロシア人と違い、あなたがたは再建のためにやってきました。」

 この紛争と国が、私ではなく、彼が勝つためのものだと考えれば、ワルダク大臣の評価は私の計算の一部でした。状況が深刻である一方、成功はまだ達成可能です。これは戦いそのものと我々が戦いのために必要とするものを再定義することから始まります。それから仕事をする根本的に新しい手法を通じて持続されます。最後に、我々の新しい作戦上の文化がアフガンの人々の力強い意思と連結するときに理解されるでしょう。


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