新防衛大臣・北沢氏への要望

2009.9.17



 昨日、民主党政権が発足しました。そこで、私は新しく防衛大臣に就任する北沢俊美氏に次のようなメールを送りました。以下にその全文を掲載します。



 私は「スパイク通信員の軍事評論」(http://spikemilrev.com/)というウェブサイトを運営し、平和実現の観点から軍事評論を行っている者です。また、軍事に関する著書として「ウォームービー・ガイド 映画で知る戦争と平和」「平和を守るための戦争概論」を上梓している者です。

 私は鳩山総理の就任演説に百点満点をつけました。これまで総理大臣の就任会見では感じなないものを、私はこの記者会見から感じました。それは、主権在民の精神を率直に総理大臣が表明した最初の機会だったと思います。自由民主党は冷戦の産物であり、日本を共産主義国にしないだけのために生まれた政党でした。しかし現在、共産党は「建設的野党」を表明し、与党になろうという意思をみせようとしていません。日本の共産化という懸念がほぼなくなった現在、自民党の存在意義は極めて低くなったといえます。今後はよりよい政策を実現する政党が伸びる政治環境が、今回の衆議院選挙で確立されたのだと、私は確信するのです。

 そこで、防衛大臣に就任される北沢さんへ、私の要望をお伝えしたいと考え、このメールを書きました。

 これまでの自民党の防衛政策は彼らの言動とは違って、必ずしも適切なものではありませんでした。独立国家としての日本の存在を確固たるものにしながら、周辺諸国に脅威を与えず、世界平和にも貢献していくのが、平和国家日本の使命であるはずですが、自民党の防衛政策はその逆に向かっていました。

 たとえば、今年4月のテポドン2号発射に対する政府の方針はまったく不適切なものでした。本当にテポドン2号が日本にとって危険ならば、政府はテポドン2号の予想針路と、墜落するなら地上からどのように見えるのかを公表し、注意を促すべきでした。ところが、政府はそうした努力はせず、自民党は事件後に弾道ミサイル対策として巡航ミサイルの導入を提言すると発表しました。実は、テポドン2号は日本上空を通過するときは1段機体を切り離し、より少ない燃料を積んだ2段機体で飛行しており、すでにかなりの高度に達していることから、仮に墜落しても劇物の燃料は高空で爆発したり、気流で拡散したりして、地上に被害をもたらす可能性は非常に小さいものでした。私は米シンクタンク「グローバル・セキュリティ」の研究員チャールズ・ビック氏とのメール交換により、テポドン2号では日本を攻撃できないことを確信しており、それをウェブサイトで主張してきました。テポドン2号にとって、日本は近すぎる攻撃目標なのです。

 私はテポドン2号が打ち上げられたとき、私は独立系通信社「アジア・プレス・フロント」の依頼で、秋田県にいました。もし、テポドン2号の航跡を撮影できるなら撮影しようという試みに参加したのです。残念なことに撮影はできませんでしたが、地元の方と話をする機会があり、強い不安感を持っていることを知らされました。これは政府が正しい情報を国民に示さなかったために生じたと、私は理解しています。

 自然災害に対する政府の対策と、防衛問題に対する政府の対策はあまりにも異なっています。たとえば、台風ならば、気象庁が予想針路と台風の規模を公表し、関係する地域に警鐘を発します。ところが、防衛政策に関しては、日本はそれほど大きな軍事的危機がないにも関わらず、自民党はそれを過大に国民に伝え、それによって自らの存在価値を高めるという手法がこれまで通用してきたのです。自衛隊をイラクに派遣したときも、「日米同盟が壊れる」というありもしない理由を持ち上げて、政府は自衛隊派遣を強行しました。そもそも、「安保条約」はあっても「日米同盟」と呼ぶべき相互防衛同盟は存在せず、日本がアメリカのために軍事行動を起こす義務はありません。また、日本海に墜落した1段機体の位置を海上保安庁がほぼ特定したにも関わらず、政府は機体を引き揚げて構造を解析することで、北朝鮮に圧力を加える努力もしようとしませんでした。1段機体の落下海域は日本の排他的経済水域であり、海水の水質に関する責任を主張できることから、有害物質を積んでいることを理由にテポドン2号を引き揚げても、国際法上の援護を受けられるという利点を政府は利用しようとしませんでした。さらに、日本にとって脅威なのは、移動式ランチャーから発射されるノドンミサイルであり、このランチャーは固定目標しか攻撃できない巡航ミサイルでは破壊できないという基本的な問題を自民党は無視しています。そこには、高額な兵器を導入すれば、関係企業との関係を密にできるという打算しか見えてきません。官界と業界のために国民は脅されているのです。

 このようなインチキはもう終わりです。もし、日本に軍事的危機があるのなら、政府はそれを正しく国民に伝える政治が定着すべき時なのです。北沢さんには、こういう政治環境を整えることを強く要請します。さらに、自衛隊の編成も、米軍を守るために存在すると言っても過言でないものになっています。先に述べたように、日本の独立を担保しながら、周辺諸国に脅威を与えない本当の防衛政策へと、防衛政策を切り替えるべき時です。存在しない脅威で国民を脅す時代を終わりにしてください。私もできる範囲で情報提供をしていく所存です。


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