衆院総選挙を目前にして

2009.8.29



 明日は衆議院総選挙と最高裁判事の国民審査の日です。すでにいわれているように、民主党の圧勝・自民党の大敗が予想されており、この雪崩のような現象に対して、識者が様々な見解を述べています。

 私なりに、これを解釈すると、冷戦の終結により、自民党の存在価値が小さくなったということになります。

 自民党は、1955年に起こった「保守合同」という政治運動によって、既存の自由党と日本民主党が合併して誕生したものです。名称は何度か変わりましたが、現在の自民党は保守合同の産物です。その目的は日本の共産主義化を防ぐことでした。終戦と共に、それまで弾圧されてきた社会主義運動が力を得ました。占領軍も日本の民主主義の発展のためには、軍国主義に弾圧されてきた人たちに力を与えるべきだと考えましたが、結局、アメリカは日本が共産化することを許すつもりはありませんでした。そこで適当な保守政党が必要となったわけです。

 当時は、資本主義と共産主義が激しくせめぎ合っていました。共産主義は科学的な経済理論で、このとおりに実行すれば経済問題はすべて解決すると宣伝され、それどころかあらゆる問題が共産主義によって解決するとまで言う者が現れました。これを信じた人たちは共産革命が正しい道だと信じ込みました。だから、どちらの立場につくかは人々にとって大きな問題であり、現在の常識からは信じられませんが、人々はこの問題を巡って互いに血を流したのです。しかし、世界経済は共産主義の理論通りには動かず、ソ連が崩壊し、世界中すべてが共産国家になるような可能性がなくなった現在、冷戦期の発想で行動する資本主義国の者たちに歪みが目立つようになりました。18日付の記事で紹介したように、オバマ大統領には未だに冷戦期の発想で物事を考えるロビイストから圧力がかけられています。自民党もソ連崩壊と共に歴史的役割を負えるはずでしたが、それを決めるのは選挙です。多くの人たちが「自民党はもう不要だ」と思わない限り、自民党は選挙で再選され続けていくのです。時間はかかりましたが、ようやく日本でも自民党がなくても、日本という国がおかしくなることはないと確信するようになったわけです。残念ながら、自民党はこのことに気がつかず、この衆院選挙でも「民主党政権では日本が崩壊する」といったアナクロな主張を繰り返しました。これは冷戦期に「共産主義に侵略される」という主張の別バージョンみたいなものです。しかし、もはやこんなセリフに騙されるものは僅かしかいません。

 つまり、自民党は冷戦時代の申し子であっただけで、それが崩壊した現在、自民党が与党である必然性はなくなったのです。自民党が弾道ミサイルへの対処だと言って、巡航ミサイルの導入を推進するという非現実的で陳腐な防衛計画を示すあたり、政権の座に就いていれば役目を果たしたという自民党の存在意義を如実に示しています。これが陸続きの隣国を持つ国であったら、たちまち野党やマスコミからの批判を浴び、選挙によって政権の座から放り出されるでしょう。頼みのアメリカには、この国へ向かう弾道ミサイルを迎撃するという、これまた非現実的な軍事的サービスまで申し出たのに、クリントン国務長官が来日時に小沢一郎氏に面会していくなど、オバマ政権はすでに日本の民主党との連携に傾いているのは明らかです。「時代は変わった」のです。自民党が政権の座に返り咲くためには、冷戦の申し子という立場を捨て、真剣に政策を提示する必要があります。これまでのように「提示した振りをする」だけでは、到底、国民の承認を得ることはできないでしょう。

 政権交代によって、すべての問題が解決するわけではありません。これからも、日本は何度も政治上の改革を体験し、さらに民度の高い民主主義へ変身していく必要があります。今度の政権交代は、その第一歩に過ぎないのです。


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