アフガン駐留軍が交戦規定を変更

2009.6.23



 military.comによれば、アフガニスタンに指揮官として着任したスタンリー・マクリスタル大将(Gen. Stanley McChrystal)が、例外を除いてアフガン人の住宅を攻撃しないという新しい方針を下令しました。

 昨年、米軍とNATO軍は、829人のアフガンの民間人を殺害しました。最近も、大きな誤爆事件が起きて問題となっています。これからは米軍とNATO軍は、「差し迫った危険があり、反撃する必要がある場合にだけ、アフガン人の住居を攻撃できる」ことになります。「しかし、敵が住居内から攻撃していて、友軍に対していかなる脅威も与えずに、敵が安全に退去できる場合、それは敵が取るべき選択である」という方針も定められました。これは、タリバンが頻繁に民間人を人質にとることが分かっているためとしています。

 規定の後者がやや理解しにくいのですが、これは敵が安全に撤退できる場所がある場合、米軍やNATO軍は完全に包囲しないという意味だと解せます。通常、住居に敵がいる場合、周囲をすべて地上部隊の照準下に置き、その上で砲爆撃を要請して敵を殲滅します。敵が砲爆撃を避けて逃げ出した場合、銃撃を加えて殲滅します。この方法では、民間人が人質になっていて、砲爆撃に乗じて脱出を図った場合、助けるどころか殺してしまいかねません。それを避けるために、一方は包囲せず、そこから誰かが逃走した場合は、攻撃しないという意味なのでしょう。逃げたのが武装勢力の場合、みすみす取り逃がすことになりますが、民間人の脱出を妨げないようにするためには、こうした取りこぼしは許容するということになります。

 今月15日に中将から昇進したマクリスタル大将が、大きな変革を打ち出しました。これは大きな前進です。これまでは戦術に則った軍事行動を続けてきましたが、コラテラルダメージを防ぐために戦術が一歩退いた形です。これでも民間人の死傷者を完全に防ぐことはできないでしょう。それほど現場は複雑です。それでも、一定数を減らすのは確実であり、英断として評価すべきです。

 問題は、この決定に対するアメリカ人の反応です。記事にリンクしている掲示板では激しい非難が湧き起こっています。「そんなんじゃ戦えねぇ!」というわけです。まだ勝てると思っている人が大勢いるわけです。偉大なアメリカがタリバンなんかに負けるとは認めがたいことかも知れませんが、もはや問題は単純な勝敗だけでは治まらなくなっています。米政府も米軍も「勝つ」ことを目標としているのではなく、タリバンを安全な程度に弱体化させることに焦点を移しています。そのためにはアフガンの大衆を味方につけることが大事なのです。アメリカは2001年にはじめてアフガンを攻撃して以来、コラテラルダメージに配慮してきませんでした。取り逃がす武装勢力を気にしても、もはや成果はあげられないのです。


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