難解で迷走する北朝鮮の動向

2009.6.13



 テポドン2号の打ち上げ準備に関する報道は後続する情報がないためか、すっかり沈静化しました。もし、打ち上げが行われるとすれば、韓国で7月30日に完成した羅老(ナロ)宇宙センターから人工衛星が打ち上げられるので、その直前ではないかという見解が出ています。

 羅老宇宙センターは2001年から建設が始まりました。北朝鮮の東倉里発射施設と同じくらいの工期を経ているわけですが、最小限度の施設しかない北朝鮮とは比べ物にならないほど大きいので、このくらいの工期は当然です(羅老宇宙センターの英語版パンフレット・pdfファイル)。北朝鮮としては、この画期的な打ち上げ施設が世界の注目を浴びる前に、テポドン2号を打ち上げるというわけです。こうした見解は確定的なものではないので、可能性の一つとして耳に入れておくべきです。

 一方、核実験の準備に関する報道が増えています。アメリカとロシア筋の情報として、豊渓里(プンゲリ)の核実験場を復旧しているという話が出ていますが、韓国政府はそれを否定しています。前回の核実験は事前に準備が察知されず、いきなり行われたため、本当に核実験だったのかという疑問を生みました。つまり、大量の通常爆弾を爆発させただけの偽装工作ではないかというわけです。今回はそういう疑惑を持たれないために、早くから準備を始めたのかも知れません。しかし、前回の実験が偽装だったとすると、少なくとも1回は核実験を行わずに済ませたことにできるわけです。

 世界を恫喝する一方で、北朝鮮は開城(ケソン)工業団地の南北当局者間会談で「土地賃貸料5億ドルの遡及支払いと月平均賃金の300ドル値上げ」を要求して、韓国政府を「受け入れられない」と困惑させています。ようするに、強硬な施設を貫くのは表の顔で、内情は苦しく、韓国に助けを求めてきているわけです。もともと、開城工業団地は韓国に建設させ、北朝鮮は土地と労働力だけを提供するという、北朝鮮にとっては誠に都合のよい条件でスタートしたのですが、事あるごとに交渉の材料に使ったり、今回のように金を要求してくるのです。

 こうした一連の動きから北朝鮮の意図を正確に読み解くのは困難です。以前から指摘していますが、北朝鮮の意図を一つだけに特定するのは困難です。日本のマスコミが好む「なぜ、今なのか?」といった問いは不適当で、やはり常に北朝鮮はすべての利益を狙っているのだと考えざるを得ません。つまり、北朝鮮が金目当てに核実験やロケット打ち上げを行っても、それはそれだけに留まるものではなく、技術開発も、後継者の権威づけも兼ねているのです。これは明らかに国家の余裕がなくなっている状態を意味します。それが中国との貿易や外国からの援助でなんとか持ちこたえている状態です。中国は最近の北朝鮮の動きを不快に感じていますが、北朝鮮をつぶす気もありません。この地域はグレーゾーンにしておいた方が楽だからです。結局、北朝鮮は存続し、現状が続く可能性が最も高いことになります。こうした環境で、日本がとるべき最良の戦略は北朝鮮が崩壊するように仕向けることです。それは日本が北朝鮮を侵略するのではなく、韓国に北朝鮮が吸収されることを意味します。その結果、日本は拉致問題や核問題の解決を手に入れます。しかし、日本政府にはこうした戦略的思考を採用する気があるようには見えません。北朝鮮も謎ですが、日本政府の考え方も謎なのです。

 ところで、テレビ朝日が金正雲とされた写真を報道し、後で誤りであることが判明するというハプニングも起きています。問題の写真はより金正雲に似せるためか、若干横に引き延ばされていたといいます。韓国政府関係者が、このように手を加えた情報を日本のテレビ局に提供することは考えられません。テレビ朝日は後に情報提供者を「韓国国内の信頼できる人物」へ表現を変更しました。「当局」という言葉が「韓国では政府特定部処を指す」ためだといいます。中央日報によれば、多くの日本人記者は「日本のメディアの慣行上「北朝鮮と関連する韓国当局」という表現は韓国政府の統一部や国家情報院・国防部・警察をはじめとする政府傘下の北朝鮮研究機関を意味」で使うと報じています。私には、これらの機関から、手を加えた写真が本物として提供されることはなく、テレビ朝日は真相を隠しているように思われます。テレビ朝日は何者かにからかわれたか、大金で写真を買わされたのでしょう。


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