北朝鮮が長距離ミサイル発射を準備

2009.6.1



 東亜日報によれば、北朝鮮は短距離ミサイルの発射は取りやめ、長距離ミサイルの発射準備を進めています。聯合ニュースは、この長距離ミサイルをテポドン2号の改良型とし、既に発射台に据え付けられたと報じています。

 韓国の情報当局者が30日に聯合ニュースの電話取材に対し、「北朝鮮が、平壌(ピョンヤン)付近にある山陰洞(サンウムドン)兵器研究所でICBMを作り、列車で移動する準備をしている事実が、米国の偵察衛星で捉えられた」と述べ、すでに発射台の方へと移動を始めたもようと話したそうです。しかし、この話は疑問があります。「最近」が正確にいつなのかは不明ですが、最終チェック・組み立てを行う必要を考えると、まだ発射台に据え付けられるはずはないのです。核実験が行われたのが25日で、その後の国際的な批判を受けてロケット発射を決めたとしたら、数日間しか余裕はなかったことになります。これだけの日数で最終チェック・組み立ては行えません。核実験よりも早くにロケット発射を決めていた可能性はありますが、非常に低いと見るべきでしょう。

 核実験と3度目のテポドン2号発射の宣言を見ると、北朝鮮はいよいよ末期状態なのかも知れないと考えざるを得ません。このところ、北朝鮮の強硬な態度は理性を欠いています。あれだけ周到に平和利用の人工衛星ロケットと宣伝したテポドン2号を、新しい国連決議の可能性が生まれると核実験を行い、その直後にまた打ち上げると宣言したのでは、打ち上げの目的が政治的であることを自ら認めるようなものです。前回の打ち上げで、人工衛星の軌道投入に失敗した以上、その問題を解決しない限り、打ち上げを行う理由はありません。それほど、北朝鮮がアメリカから譲歩を得ようとするのは、何らかの理由で体制が危機的状態にあることを示唆しています。経済問題、元首の健康と後継者の問題などが理由としてあげられます。いよいよ北朝鮮が末期になった可能性を考えた方がよさそうです。

 非常に気になるのは、こうした北朝鮮の異変を目の当たりにして、シンガポールで行われたアジア安全保障会議が、型通りの意見交換に終始した点です。北朝鮮の崩壊が迫っているかも知れない状況としては、もっと緊密な議論を期待していました。

 次回のテポドン2号の打ち上げで、ハードウェアに関して注目すべき点は、打ち上げ準備が前回と同じくらいで完了できるかと、前回起動に失敗した3段機体の制御ブースターが動くかどうかです。制御ブースターがまた動かなければ、やはり今回の打ち上げは十分な準備の上の科学実験ではなく、取り急いだ政治的行動を考えられます。

 ところで、テポドン2号の部品は、東倉里(トンチャンリ・東倉洞(トンチャンドン)とも書かれることがあります)の発射施設に搬入されたことが、本日確認されました。昨年、この施設から発射した場合、ロケットは日本を通過せず、ほぼ真南に飛ぶことを説明しました(記事はこちら)。これは日本を刺激することをできるだけ避けるための方策と言えます。見た目は強気ですが、実は腰が引けているところが見て取れます。もちろん、やる気にさえなれば、テポドン2号を東へ向けて飛ばすこともできます。しかし、低高度の内に墜落すれば、地上で大惨事を引き起こす危険があります。また、静止衛星の打ち上げにも成功していない内に、極軌道衛星を打ち上げるというのは、科学研究としては尋常ではなく、これが政治的デモンストレーションであることを強く感じさせるものです。


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