国防総省の肥大化した支出にストップ

2009.5.9



 military.comによると、オバマ大統領は米議会に5月の最終週前に国防総省の武器調達の無駄を省く法案を提出するよう要請し、上院は全会一致で武器調達の全面的な見直しを課す法案を成立させました。下院も同じ方向で動いています。

 ロバート・ゲーツ国防長官も予算の節約は最優先課題と位置づけています。ウィリアム・リン副長官(Deputy Defense Secretary William Lynn)は、米議会に5年間にわたって原価見積もりと監督に対して5年間以上、20,000人の人員をあてることを計画していると説明しました。上院が成立させた法案は監督と透明性を強化し、独立した予算評価を担う管理者を設け、国防長官と上院に直接報告させます。この法案は、元々のベースラインの50%を超える計画は、国家安全保障やその他の理由がない限り終了させるという、近年無視され続けている予算超過に関する1982年に成立した規制がさらに強化されます。上院軍事委員会カール・レヴィン委員長(Senate Armed Services Committee Chairman Carl Levin)は、「我々は武器システムの無用な金メッキを減らさなければなりません」と述べました。レヴィン委員長は、次世代統合打撃戦闘機(the next-generation Joint Strike Fighter)と未来戦闘システム(the Future Combat System)の2つの主要な兵器プログラムは800億ドルの見積もり超過で、一単位当りの平均原価は本来の見積もりの40%以上に達していると述べました。この法案を指示したジョン・マケイン上院議員(Sen. John McCain)は、バージニア級潜水艦の建造費は580億ドルの本来の見積もりから810億ドルへ、ゲーツ長官が終了を検討しているF-22は880億ドルの最初の見積もりから約2倍に増加したと主張します。政府説明責任局(The Government Accountability Office)は、国防総省の97件の武器調達計画がほとんど3,000億ドルの予算超過になっており、計画は予定から平均22ヶ月遅れていると指摘しています。レヴィン委員長は、非現実的なコストとスケジュールの見積もりに頼り、非現実的なパフォーマンスの予想を立て、未熟な技術の採用を強く主張することにおいて国防総省を批判しています。

 これを読んで、来るべきものが来たのだと思いました。いずれこうした方針転換がないと、国防予算は本来必要なところに必要な手当ができなくなると言われていたからです。もともと、国防総省にはコスト意識がなく、そこへ同時多発テロが起きてブッシュ政権が不必要なイラク侵攻を企てたために、国防費が異常に増えてしまったのです。国防総省は冷戦が終了した後も大規模な戦争に備えた装備の開発を進めており、ハイテク機材で戦場を管理する未来戦闘システムや次世代統合打撃戦闘機「F-35」を開発してきました。戦争がない場合、いかにして軍隊を整備したかで軍人は評価されます。高度な兵器システムの開発や導入に携われれば、それは自分の名誉となるシステムが存在するのです。下級兵士は戦争でもないと高位の勲章はもらえませんが、高級将校の中には平時でも戦時に限定される高位の勲章と同レベルの勲章ををもらえる人がいます。そこで高級将校たちは競って新しい兵器システムを考案し、その導入を促進しようとするのです。これがうまく機能すれば、適切な兵器を持つことができるわけですが、場合によっては意味のない兵器の開発にゴーサインが出ます。だから、廃止の候補にのぼった計画の責任者たちは、いま強い不安の中にいるはずです。こうした巨大な計画を受け持つと、国益以上に自分の計画の方が重要に思えてくるものです。周りから見ると、彼らは自分のことしか考えていないように見えるでしょう。

 軍隊には常識を欠いた巨額の資金が湯水のように投じられるものです。もともと、軍隊は経済活動としては主に消費しかしないもので、これはナポレオンの「軍隊は胃袋で進む」という言葉に象徴されます。軍隊の技術が民間に転用され、利益を生むこともありますが、ほとんどの場合は消費されて消えるのです。それを忘れてはいけません。

 こうした問題は反面教師として、日本もよく研究すべきです。ミサイル防衛の導入など、日本も効果が不明ながらも高額な兵器を持つようになっていますが、こうした問題に対しては市民の側からの問題提起が少なすぎます。「専門家に任せておけばよい」という発想では駄目なことは、今述べたアメリカの状況により明らかです。誰もがこうした議論に参加するのは難しいとしても、関心を持つ市民による問題提起が活発に行われるべきです。 ブッシュ時代に拡大した軍事費は早急に何とかする必要があり、大統領、国防長官、議会共に危機感を持っています。そうしないと、ハイテク兵器を買い続けないと、国防が立ち行かなくなると、大して考えもせずに結論を出す人が増えてしまいます。軍事オタクがこう言うのは聞き流しても構いませんが、民間人で高い地位にある人たちがそう考えるようだと、政治にも大きく影響するので問題です。民主主義社会では、市民が戦争を止めるのが理想的だと、私は考えます。


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