サルタンワズからタリバンが撤退か?

2009.5.21



 military.comによれば、パキスタン軍は夜通しの戦闘を行い、ブネール(Buner)の主要な町サルタンワズ(Sultanwas)からタリバンを追い出しました。

 アザル・アッバス少将(Maj. Gen. Athar Abbas)によれば、パキスタン軍は武装勢力の車両を捕獲し、自家製爆弾を除去して、スワト峡谷の細長いリゾート地を奪還しました。パキスタン軍は武装勢力1,000人以上を殺害し、自軍の損害は50人以上だったと発表しました。まだ、タリバンはスワトから完全に追い出されておらず、パキスタン軍はいつまでに任務を完遂できるかは回答を避けています。

 一方、この戦いで出た難民は160,000人が難民キャンプに登録されましたが、米軍は今年末までに200,000〜250,000人に増えると見積もっています。クリントン国務長官は火曜日に緊急人道支援として1億1,000万ドルを提供することを決めています。その一環として、米軍機が空調機能付きのテントと包装済みの食糧120,000食を難民キャンプへ運びました。他に、2千8百万ドル分の小麦と植物油がすでに配送済みです。マイケル・A・レフィーバー海軍少将(Rear Adm. Michael A. LeFever)はパキスタン軍が戦闘地帯の南にある難民キャンプに武装勢力が近づかないように道路を封鎖していると述べています。

 military.comの別の記事によると、パキスタンの宗教指導者と学者が政府の後援で会議を開き、自爆攻撃と斬首の2つのタリバンの戦術を「haram(ハラーム・イスラム教条の非合法)」とし、パキスタン軍が過去に武装勢力を後援したことを批判しました。ムフチ・ムネーブ・ウルレマン(Mufti Muneeb-ur-Rehman)は「我々は今我々が30年前にまいた農作物を収穫しているのです」と述べ、パキスタン軍は独裁者ザイ・ウルハク(Zia-ul-Haq)の下で1980年代にアフガンのムジャヘディンを支援しました。

 パキスタン軍の大戦果は耳にタコができているので、本当にタリバンを相当したのかは疑問が残ります。なぜ、パキスタン軍から作戦の展望が出されないのかが、そもそも疑問です。パキスタン国内からタリバンを完全に駆逐するまで戦うとか、アフガニスタンと緊密な協力関係を築いたといった、本来必要なはずの措置を行い、それを内外に宣言しなければいけないはずです。アメリカから言われるからやっているだけで、明確な国家の方針は存在しないように見えます。こうしたことも、パキスタンが一枚岩ではないところに問題があるのでしょう。政府内部にもタリバンを支持する者がいて、ザルダリ大統領の権威が低いため、大号令を出すことができないのです。今回の宗教家の会合もどれだけ効果があるかは疑問です。人々がタリバンをより信頼すれば、こうしたイベントの意味はなくなります。次に我々が知るべきなのは、こうしたパキスタン国内の詳細な権力関係です。昨日紹介したアハメド・ラシッドの本は、その一助になるはずです。

 なお、イスラム過激派の増大を報じる記事もあります。spacewar.comがイスラム過激派の脅威がドイツ国内で高まっていると報じました。憲法保護局(the Federal Office for the Protection of the Constitution)の報告書は、ドイツ国内で増加するイスラム主義者のグループがアルカイダが運営するテロリストキャンプで訓練を受けるために、アフガニスタンとパキスタンの国境地帯を訪問していると主張しました。ドイツ国内で、ドイツとアフガン国内でのドイツ軍の軍事活動に言及する脅迫と、国内で聖戦のためにイスラム教徒を募集するビデオが増加しています。ドイツは約4,000人の兵士をアフガンに派遣しており、アルカイダの標的となっているのです。しかし、報告書は安全保障上の直接の脅威は、再び増加を見せ、国内に4,800人いるとされるネオ・ナチだとしています。

 本当によいニュースは聞かれなくなりました。以前から指摘していますが、テロは確実に拡大しています。もっと大きな戦いを覚悟しなければなりません。パキスタンでアルカイダを食い止めるとしたオバマ大統領の公約は果たせない可能性もあります。この場合、オバマ政権が批判にさらされる恐れがあり、それがテロ対策を余計に遅らせる危険もあります。柔軟な思考を用いて、複雑な状況をよりよい方向へ移行させる努力が必要です。

Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.