パキスタンの治安維持は絶望的

2009.5.1



 military.comによれば、過激主義者が結合して作戦を拡大して以来、アフガニスタンとパキスタンで行われたテロ攻撃が急増したという報告がアメリカで公表されました。

この記事が掲載された時は、報告書はまだ公表されていませんでしたが、現在、報告書はウェブサイトで公開されています。

 今回発表された報告では、パキスタンで行われたテロ攻撃だけを見ても、2006〜2008年の間に4倍以上になったと書かれています。昨年、米国防総省から発表された「Country Reports on Terrorism」では、2006〜2007年の間にパキスタンで行われたテロ攻撃は375件から887件へ、2倍以上になり、死者の数は335人から1,335人まで300%増加しました。アフガンではテロ事件は1,127件で2006年よりも16%増加し、死者は1,966人で2006年の1,257人よりも56%増加しました。アメリカの政府機関とアナリストからのコメントも載っていますが、一様に悪いニュースばかりだと伝えています。報告書の著者バーナード・フィネル(Bernard Finel)は、パキスタンの状況は「既に取り返しがつかないかも知れません」と言っています。

 そのパキスタンですが、military.comはパキスタン軍が「ブラックサンダー作戦(Operation Black Thunder)」を敢行し、タリバンの隠れ家を襲撃したことを報じています。この作戦はアメリカからの激しい圧力によって発動されたと、記事は書いています。作戦の最後の24時間で武装勢力14人が殺害され、彼らの拠点はブナールの山頂を横切る8kmの拠点は激しい抵抗をした後で陥落しました。聖職者スーフィ・ムハンマド(Sufi Mohammad)は1,000人に演説をするために姿を現し、「政府との交渉は軍が攻撃を辞めた時にだけ始まるだろう」と述べました。その他、これまでの戦果も併記されています。記事の終わりには、アフガンで武装勢力と戦っているアメリカとイギリスの指揮官は、パキスタン軍にパキスタン北部のトライバル地域から兵器と戦士の移動を止める能力がないことに失望している、と書かれています。

 現在の状態になっても、パキスタン政府が主導するのではなく、アメリカの要請でタリバン討伐を行うのは奇妙な話です。ムハンマド師はタリバン側についたようです。そもそも、スワト峡谷での和平合意が、なぜ必要だったのかも、未だによく分かりません。戦う一方で妥協してみせるパキスタン政府のやり方は、戦いの原則から外れています。タリバン支持派が多いとされてきたパキスタン情報部は、未だにタリバンを支援しているのでしょうか。パキスタン政府が親タリバン派を追放しないのはなぜなのでしょうか。様々な謎があり、それらは未だに解決されていません。我々の知らないところで重大な戦局が確定的な状況になっているのではないかと思えるわけです。「暖簾に腕押し」みたいなパキスタン政府では、タリバンを食い止めることはできそうにありません。また、我が国の洋上給油活動は何の成果も生んでいないことになります。


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