脅威への正しい対処法は?

2009.4.30



 TBSのラジオ番組で、現在、大騒ぎとなっている豚インフルエンザへの対処に疑問があるという、元保健所所長の方のコメントが紹介されていました。

 そのコメンテーターは、現在のところ致死率が大ざっぱには10%程度の豚インフルエンザへの対処としては大がかりすぎ、WHOも日本政府も豚インフルエンザの危険性ついて説明をしていない点が問題だと述べていました。

 私はこの話を聞いて、ここ数日疑問だったことが少し晴れた気になりました。致死率とはまったく治療をしなかった場合の罹患者と死者の割合です。炭疽菌が肺に入って感染する肺炭疽の致死率は90%ですが、2001年に起きた炭疽菌テロでは抗生物質の投与で10人中6人が完治しています。天然痘の致死率は30%、ペストは100%。豚インフルエンザの10%という致死率には、治療を受けた人の死亡データも一部は含まれていると考えられますから、10%よりは少し多いと考えてよいかも知れません。それでも、今のところははっきりした数字は示されていません。

 よく知られた伝染病に比べると、豚インフルエンザはそれほど危険な病気ではありません。番組中、司会者が興味深い質問を発しました。「素人としては、政府に大げさすぎるくらいの対処をしてもらった方が安心に感じる」という意見です。しかし、コメンテーターは、そういう態度を否定しました。実際、豚インフルエンザ問題が報じられてから、金融市場にも混乱が起こり、一部で相場が急落しましたました。これは豚インフルエンザに対する不安を反映したもので、すぐに回復すると考えられましたが、今日になると相場は回復してきました。

 先日のテポドン2号騒動でも、テポドン2号が日本列島のどの辺を通過し、墜落するとすれば、どのように見えるのかといった説明を政府はせず、「とにかく注意してください」という要求だけはしました。伝染病も病原菌の特徴が分からないと対策が取れないように、漠然とした不安に、必要以上の手段で対抗するのは誤っています。こうした誤った判断を助長する情報があります。たとえば、過去の伝染病に、最初よりも2回目の感染の方が規模が大きかったものがあったといった話があります。だから今、病原菌を水際で阻止すると力んだところで、効果があがるというものではありません。患者が確認されているのに、豚インフルエンザの症状に関する情報は、「弱毒性」を除くとほとんどありません。患者の総数も他の伝染病に比べると少ないのです。WHOはこれまでに確立した対策に基づいて行動しているのでしょうが、目下のところ、正体が明らかではない病原菌に対して警告を発するという不利な状況にあります。

 こういう場合、「大げさすぎるくらいの対処の方が安心」という考え方は避けるべきです。それが誤っていた場合、余計に悪い結果を生むかも知れません。脅威を解明し、正しい対処法を探るべきなのです。軍事的な脅威についても同様のことが言えます。テポドン2号を恐れる人は、在日朝鮮人に「俺たちはお前たちの仲間にやられる気はないんだからな。よく憶えておけ」と言いに行きたくなるかも知れません。過去に、北朝鮮の行為に怒った日本人が在日朝鮮人に嫌がらせ行為をした者が出たことがあります。同時多発テロ以降のアメリカのように、国家がテロ容疑者を収監して拷問し続けるという異常な事態が起こることもあります。こうした行為は何の効果も生まないのに、遺憾ながら起きてしまうものなので、細心の注意が必要です。

 とにかく、物事は何であれ、冷静に分析する態度を欠かすべきではありません。愚かな行為に走る前に冷静に考えるべきです。日本語には感情を表現する魅力的な言葉がいくつもありますが、思考する際にはひとまず忘れるべきです。そんなことはできそうにないと思う人は、日頃から思考方法をトレーニングすべきです。

 最近、テレビ番組から報道番組がヘリ、思考を求めない娯楽番組が増えています。これはテレビ局も不況で広告費が集まらないので、安上がりで視聴率がとれる番組を増やしているだけなのです。こうした世間の風潮に流されていると、本当の脅威が目の前に来た時に対処できなくなる危険があると考えるべきです。



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