テポドン2号で北朝鮮が大きな勝利

2009.4.1



 時事通信によれば、北朝鮮の朝鮮中央通信はテポドン2号を日本が迎撃した場合、北朝鮮は「再侵略戦争の砲声」として、「最も強力な軍事的手段によってすべての迎撃手段とその牙城を無慈悲に粉砕する」「相互尊重をうたった2005年9月の6カ国協議共同声明を認めない立場を宣言し、「6カ国協議のテーブルをひっくり返す行為だ」と主張しました。

 北朝鮮の宣伝謀略活動が完全に成功を収めていることをご承知でしょうか。助演は日本政府と国内大手メディアです。この両者は北朝鮮が望んでいるとおりの反応を示し、北朝鮮が望んでいるとおりの緊張を作り出すのに貢献しました。連日、日本政府高官のコメントや地方自治体の訓練風景、PAC-3が配備される映像が流れれば、北朝鮮は「日本人はテポドン2号に恐れをなしており、これに乗じて挑発を強化すれば、日本から大きな譲歩を引き出せるだろう」と北朝鮮が考えるようになります。そして現在、その通りの状況になっているのです。

 「人工衛星ロケットの打ち上げを名目に、弾道ミサイルを発射しようとしている」という絶妙なフレーズを考え出したNHK報道部は、その功労により、北朝鮮から勲章をもらってもおかしくないほどです。この言い方では、北朝鮮が日本やアメリカを攻撃するためにテポドン2号を打ち上げようとしていると勘違いする人を生みかねません。これを、北朝鮮が「弾道ミサイルの技術向上のために人工衛星ロケットを打ち上げようとしている」と言っていたら、逆に北朝鮮を追い込めたでしょう。ちょっとした表現の違いが明暗を分けたのです。

 日本政府はアメリカが迎撃すると言ったのを真に受け、首都圏にまでPAC-3を配備するという失態を演じました。北朝鮮はこれを、日本が心から恐怖を感じている証拠と見るでしょう。日本はテポドン2号が東京に落下すると考えるから、PAC-3を配備しているのだと北朝鮮は判断します。私はアメリカはテポドン2号を迎撃しないと最初から指摘してきました。そして、その通りの展開になりました。さらに、各国から衛星写真の分析により人工衛星ロケットである可能性が高まったと報じられると、日本政府は慌てて見解を改め、麻生総理は「弾道ミサイル」ではなく「ロケット」という表現を用いるようになりました。バブル期に、日本は自衛隊を軍隊と認めて「普通の国」になるべきだという考え方が流行しました。私に言わせると、この意見は何ら軍事的分析を伴わない理念だけの欠陥思考ですが、一定の支持を集めることに成功しました。小泉総理がイラクに自衛隊を派遣したことに、この影響がなかったとは言えません。ソマリアの海賊への対処も同様です。理念など、戦争のような負荷の高い問題には何の役目も果たしません。理念はほころびやすく、何の役にも立ちません。それよりは冷静な分析による判断が重要なのです。打ち上げ後、光明星2号が軌道に乗ったのが確認されたら、日本政府は完全に面子を失い、北朝鮮から謝罪を要求されることになります。せめて、4日までには、首都圏に配備したPAC-3を撤収させるべきです。

 もはや、これらの失敗は取り返せません。これが本当の戦争であったら、日本は完全に敗北していたでしょう。これが現代日本の実態なのです。いい加減に、この流れを変えないと、いつか日本は防衛問題で大きな失敗をします。

29日の衛星写真

 globalsecurity.orgに29日に撮影された新しいテポドン2号の写真が掲載されました(写真はこちら)。これを見ると、サービスレベルが水平な状態になったらしいことが分かります。作業員が歩いてロケットに近づけるようになったはずです。ロケットを吊り下げるのに使ったクレーンは、すでに横を向き、打ち上げの邪魔にならない位置に旋回済みです。これは最終的な機体のチェックがはじまったことを意味しています。燃料の注入がはじまったかどうかは、この写真からは判断できません。

報道に見る誤り

 未だにテポドン2号が2段式ロケットだと説明しているメディアがあります。さらに、今回は3段機体を追加して射程を伸ばしたと、それらしい理屈をつけているメディアもあります。2006年の段階から、テポドン2号は3段式ロケットだといわれていました。

 前に指摘していますが、発射台上のテポドン2号の写真は説明文が誤っているものがあります。「Payload」「2nd Stage」の位置が低すぎるのですが、これがそのまま日本のテレビニュースで紹介されています。引用されたglobalsecurity.orgの説明(こちら)が誤っていたのが原因ですが、私は同シンクタンクの上級研究員チャールズ・ビック氏から「誤り」との旨、確認をとっています。

 ある人がテポドン2号の推進剤(燃料)を「灯油」と説明していました。灯油なら機体への注入に、これほど時間はかかりません。実際にはもっと毒性の強い「非対称ジメチルヒドラジン」が推進剤であり、酸化剤として「抑制赤煙硝酸」が使われています。非対称ジメチルヒドラジンと灯油はまったく別の有機化合物です。

 明後日3日までは記事を更新する予定ですが、残念ながら4〜5日は更新ができません。5日の夜にはおそらく更新できるでしょう。実は、この期間はテポドン2号報道に協力する関係上、更新することができないのです。5日夜に、何かご報告できることがあるかも知れません。


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