秋田県のPAC-3はテポドンに届かない

2009.3.31



 秋田県に配備されるペイトリオット・ミサイル「PAC-3」は、秋田市内の陸上自衛隊新屋演習場(kmzファイルはこちら)に配備される予定とのことです。早速、PAC-3がどの範囲を守れるのかをGoogle Earthで確認してみました。

 PAC-3の射程は約20kmといわれています。そこで、新屋演習場の北端にPAC-3があるとして、男鹿半島に向けて20kmの直線を引いてみました。先に私が調べたテポドン2号のコースは半島の北を通っていたからです。すると意外なことに、下の図のように、PAC-3は男鹿半島の南端にしか届かないことが分かりました。

図は右クリックで拡大できます。

 下の図が、私のテポドン2号の予想コースです。もちろん、テポドン2号がこれよりも南側を通る可能性はありますが、その幅はそれほど広くはありません。おそらく、新谷演習場のPAC-3はほとんどの場合で、テポドン2号を射程に捉えることができないと考えられます。

図は右クリックで拡大できます。

 岩手演習場(kmzファイルはこちら)に配備されるPAC-3については、大ざっぱな検証ですが、テポドン2号が飛行する空域の3分の2程度しか射程にかからないかもしれないという結果でした。テポドン2号が北寄りに飛んだ場合は迎撃できない可能性があります。

 ここから考えられるのは2つしかありません。私の想定が誤っているのか、陸自がPAC-3が届かないことを承知で配備しているのかの、いずれかです。しかし、27日に防衛省が発表した「北朝鮮による飛翔体発射に係る自衛隊の対応について」という書面によると、防衛省のテポドン2号の予測コースは、私の図とほとんど同じであることが分かります。下の画像では飛行コースがPAC-3に隠れていますが、Acrobat Readerで見ると、PAC-3のイラストが表示される直前に、コースが明確に見えます。

図は右クリックで拡大できます。


 これらから、テポドン2号が領空を侵犯した場合でも、PAC-3はすべての場合において迎撃するのではなく、人口密集地である秋田市と盛岡市を守ることを第一に考えているのが分かります。なぜ、こんな方法をとるのでしょうか?。これがPAC-3の能力の限界であり、もともと、このような運用をするミサイルなのです。このことを国民がよく承知する必要があります。

 ともあれ、新谷演習場のPAC-3は、テポドン2号が大きくコースを外れた場合でないと動けず、事実上、開店休業状態ということになります。これは、他のPAC-3も似たり寄ったりでしょう。テポドン2号は正常に飛べば、彼らの射程のずっと上を飛ぶのですから。もちろん、現場の隊員はこのことをよく理解しています。迎撃しないという点では開店休業ですが、隊員がやるべき作業は沢山あるのです。

 その他に、報道で気がついたことを以下に書きます。

 毎日新聞が「06年7月に発射された長距離弾道ミサイル「テポドン2号」は2段式で、最大射程を延ばすために3段式に改良された可能性もある。」と書いていますが、2006年の段階から、専門家の間ではテポドン2号は3段式ロケットだと言われていました。当時、メディアの中には2段式ロケットと書いたところがありましたが、それは誤りです。だから今回、テポドンの最大射程が延びたわけではありません。もともと、その最大射程も専門家によって意見が大きく異なる点も注意しておく必要があります。

 元山(ウォンサン)で短距離か中距離の弾道ミサイルを発射する準備が行われていることが、偵察衛星によって確認されたと報じられています。2006年の時は、先に短・中距離ミサイルを2発発射してからテポドン2号を打ち上げ、その後に、さらに4発のミサイルを発射しました。これら短・中距離ミサイルは射程が短いので、日本には届きません。2006年には旗対嶺(キテリョン)から発射したので、今回は別の場所からやるようです。状況は2006年の時と極めて似てきています。


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