世論を誤導するテポドン報道

2009.3.21



 ここしばらくで、テポドン2号に関して、2つの見解が定着しました。第一は「北朝鮮は人工衛星ロケットの打ち上げを名目に弾道ミサイルのテストを行おうとしている」というもので、もう一つは「日米はテポドン2号を迎撃するために万全の体制を整えている」です。

 いずれも事件を正しく捉えていないことは、これまで指摘してきたとおりです。ここにきて、山形新聞の「北朝鮮『衛星』落下?いつどこに 打ち上げ通告に県内漁業関係者ら不安」(18日付)が山形県内の関係者の不安を取り上げ、この問題の核心を突きました。酒田市内の漁師は「何がいつどこに降ってくるかは分からない。ミサイルの可能性だってある。期間中はずっと空を見上げていないといけないのか」と不安を口にしました。県危機管理室は「発射された場合は、消防庁からの情報を基に、関係機関に緊急連絡する」と述べています。防衛省の情報が消防庁に伝わり、消防庁から関係機関に連絡され、関係各所に達するまでの時間を考えると、テポドン2号の残骸はすでに墜落している可能性が高く、危機管理室の見解は意味をなしていません。

 これらの情報で思い出すのは、2006年のテポドン2号打ち上げの際、国から地方自治体には何の情報も提供されなかったという事実です。それでも、国内マスコミは事後の対処だけを評価し、「国の対応は合格点」だったという認識を広めました。実際には、ロケットの墜落に対する対処は何も行われていませんでした。いま、日本政府は迎撃態勢の話ばかりを強調しますが、それによって、テポドン2号の軌道がリアルタイムで国民に伝えられるという錯覚が広まっています。仮に、テポドン2号が日本の領域に墜落した場合、まず国民は何の情報もない状態で被害を受け、追って日本政府が警報を出す、という順序になります。消防庁や自衛隊が救援に動き出すためには、国民の誰かが被害を通報することが必要です。国民保護法によって、国は国民を守ると信じている人には衝撃的かも知れませんが、法律はできたものの、有効な対策はほとんど具現化されていません。

 本当にテポドン2号の墜落が危険なら、すでに政府は国民に対して、何かが墜落してくるのを目撃した場合、警察や消防に通報したり、連絡用電話番号を告知するなどの広報活動を行う必要があるはずです。あるいは、ロケットの墜落が視覚的にどのように見えるのかを告知して、他の飛行物体と混同しないような啓発活動も必要です。学校にはロケット打ち上げが予告されている時間帯は、戸外授業を避け、校舎内で授業をするように指示しておく必要があるでしょう。被害が出た場合の対処についても告知する必要があるはずです。現在までにそのような対策がとられたという話は耳にしていません。迎撃ミサイルが対策のすべてです。これは非常に不自然な話です。

 国内メディアはどこも、こういう現状が不自然だと指摘していません。政府と一緒になって騒いでいるだけです。実はこういう状態が、「脅威による理性の短絡」と私が呼ぶ状況なのです。冷静にならなければならない時ほど、人間は不合理な判断しかしないものなのです。


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