911テロ容疑者が「骨の髄まで」宣言?

2009.3.11



 military.comによれば、同時多発テロで起訴されている5人のテロ容疑者が、法廷に提出した書類の中で、自らを「骨の髄までテロリストである」と宣言しました。

 「我々はイスラム信者、その領土、聖地、宗教すべてを守ってあなた方と戦います。

 彼らは死刑について、「プライドを持つ我々が身につける名誉の勲章」としました。

 陰謀の罪は、計画は秘密になされたのだから「ばからしいこと」と彼らは書きました。「あなた方の情報機構は、すべての能力を使って、我々の軍事攻撃を神聖な9月11日の作戦の前に見つけるのに失敗しました。なぜ、あなた方は我々に罪を負わせ、責任を負わせ、裁判にかけるのですか?」。要するに、俺たちよりも情報機関の連中を裁判にかけろ、と言っているわけです。

 彼らは米軍が障害物や塹壕、航空機の背後に隠れて戦うことを批判し、イスラム教をユダヤ人、キリスト教信者、異教徒に対する「恐怖の宗教」だと述べました。「我々は骨の髄までテロリストです。神に深く感謝します」。

 5人のテロ容疑者の内3人は、自分で自分の弁護をしていますが、2人(Ramzi BinalshibhとMustafa al-Hawsawi)については、その能力を決める判定が出るまで、軍の弁護士2名がつけられています。弁護士たちは、この英語でタイプされた書類について、信憑性に疑いがあるとして異議を唱え、依頼人がこの書類の内容について承知し、読み、署名したという証拠はないとしています。

 この記事を読んで、アルカイダに対する恐怖心を募らせるようでは、軍事問題を考えるのに向いていません。この程度の話は始終出ていることで、これくらいで驚くようでは、世界の事件を調べることはできません。

 そもそも、書類が本当に容疑者が作成したものかどうかもはっきりしていません。こういう場合、とりあえず、その情報は無視するのが賢明です。ニュースの読み方については、私たちは慎重であるべきです。

 つい最近、民主党の小沢一郎代表の公設秘書が逮捕される事件が起こり、これまで好調だった小沢氏の支持率が急速に低下しました。多くの人が小沢氏に責任があると考えているようですが、私は事件の真相は未だに不透明であり、事件を判断する材料は公にされていないと考えています。現在のところ、証拠といえるのは、「西松建設の関係者」が小沢陣営から献金の額や方法の指示を受けていたということくらいですが、この「西松建設の関係者」が誰なのかは明らかにされていません。また、そう報じているメディアの記者が「西松建設の関係者」に接触したわけではないようで、証人に直接取材したという記事はまだ目にしていません。こうした情報は、通常、検察からのリーク情報ですから、検察の筋書きに合った話ばかりになるのは当たり前なのです。検察が記者会見を開かず、リーク情報を流すだけなのは、実はめぼしい証拠がないためではないかという推測が成り立ちます。

 記事からイメージを膨らませるのは禁物です。ある殺人事件で、有名なジャーナリストが「警察は隠し球を持っている」とテレビで発言したことがありました。丁度、警察の不祥事が連続していた時期なので、この事件で間違いがあれば警察の権威失墜は確実という時でした。そんな時に警察幹部が自信を持って答えたのだから、隠し球があるのだ、と有名ジャーナリストは断言しました。私はその事件の一・二審の大半を傍聴しましたが、証拠はすでに報道で知られていたことがほとんどで、最後まで隠し球は提出されませんでした。現在進行中の事件捜査について、警察幹部が「ちょっと自信ないんだよね」と言うわけはありません。これは、商品が売れていなくても商売人が「売れてまっせ」と言うのと同じです。ちなみに、このジャーナリストは保守系の人ではなく、かつては共産党系の出版社に所属したこともある人でした。

 力士の大麻問題でも、尿検査で露鵬と白露山に陽性反応が出たという報道が流れると、一斉に2人へのバッシングがはじまりました。私はこの報道を目にした時、もう少し検査の方法を詳しく知りたいと思いました。尿検査に誤りがある場合も、少ないとはいえ起こり得るからです。かなり経ってから、尿検査のやり方に問題があったことが明らかになりました。また、2人が知らずに大麻を含んだ食品を口にした可能性も考えなければなりません。こうした調査は慎重に進めないといけないのに、相撲協会は慌てて2人を処分し、そんのために未だに法廷論争が続いています。

 松本サリン事件の時、私は報道を総合的に判断して、最初に容疑者とされた方が犯人である可能性はないと結論していました。私の周囲には、彼が犯人だと信じる人がいて、私が無実説を述べるとかなり驚いていました。しかし、サリンの発生現場が容疑者とされた方の家に隣接する駐車場内であり、彼の家からサリンを入れた容器や防護服が発見されなかったということは、彼にはサリンを散布できない明白な証拠でした。防護服なしでサリンを発生させたのに、家まで無事に歩いて帰れるわけがないからです。唯一の可能性は、共犯者が車ですべてを持ち去ったことしかなく、こういう犯行形態が考えにくいことから、犯人は別人だと判断できました。容疑者が病院で「これで幸せになれる」と述べたとされる報道については、明白には分からないものの、何か間違って集められた証拠ではないかと説明しました。後日、この言葉は彼と彼の長男の会話を警察官が聞き違えた可能性が高いことが判明しています。彼が「万一の場合は、後のことを頼む」と長男に言い、「今は大変な時だけど、頑張ればまた幸せになれると思う」と長男が答えたのを、部屋の外で聞いていた警官が「これで幸せになれる」と聞き違えたらしいのです。

 確実に思える証拠も、一応は疑ってみる必要があります。そうして注意しても誤りは避けられないもので、それ故に一層注意が必要なのです。近頃は、テレビの影響で、誰もが何でも分かっていると思い込みがちです。しかし、残念ながら、日本のマスコミはアメリカに比べると、かなりレベルが落ちます。そのアメリカのマスコミも百年前はイエロージャーナリズム一色で、記事は政党や企業から金をもらって書くものでした。現在は、取材や記事の書き方にルールが確立され、比較的良質の記事を読むことができますが、日本はそこまで行っていません。

 この記事でも、少なくとも、弁護士が異議を唱えていることを、テロ容疑者の声明文に併記して、一方的な記事ならないよう、読者の判断が可能な形にする工夫が見られます。こういう点に注意して記事を読むべきなのです。


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