テポドン2号報道に関する疑問

2009.2.16



 テポドン2号の発射準備に関する報道が少しずつ出ていますが、どうも理想的な状態とは言えません。今回、気になる報道について解説を試み、現段階での情報を整理してみます。


テポドン2号は列車で搬入された?


朝鮮日報が情報筋の話として伝えたところによると、北朝鮮は最近、「テポドン2」の第1、2ステージを特別列車で基地に運び込み、偵察されるのを避けるため屋内の施設でミサイルの組み立てを行っている。(ロイター)

 この記事を読むと、舞水端里(ムスダンリ)発射施設に引き込み線があり、列車で運んだテポドン2号を最終組立工場へ直接運べるように思えます。ところが、舞水端里には引き込み線はなく、ロケットを運び込む設備はありません。だから、舞水端里の近くまで列車で運び、そこから陸路か海路で発射施設へ運んだはずです。東倉洞(トンチャンドン)発射施設には、より近くまで線路が来ており、そこから陸路で運んだと考えられますが、舞水端里は艀を使ったのではないかと、私は推測しています。施設の衛星写真を調べている内に、施設の南東方向にある漁港に、田舎には似つかわしくない船着き場があるのを知りました。そこから最終組立工場まで道路がつながっています。そこで、テポドン2号はこの港まで艀で運ばれたのかも知れないと推測しています。(もちろん、陸路で運ばれた可能性も否定はできません)

舞水端里発射施設 (左上)最終組み立て工場 (右下)船着き場?
船着き場らしい場所。長さは44m程度。



今月下旬に打ち上げは可能か?

 いつ打ち上げが可能になるかについては、朝鮮日報が様々な予測を書いています。「今月末から3月初め」「3月中旬か下旬」「4月」という3つの予測の内、現実味があるのは後者の2つです。

 「今月末から3月初め」は、李明博(イ・ミョンバク)大統領の就任1周年がある頃です。テポドン2号を発射台に載せるのに2〜3日、燃料を注入するのに4〜5日だからというわけです。これは天候などの条件に恵まれ、技術的な問題もまったく起こらなかった場合の話です。実際には、ロケットの打ち上げはこんなに順調にはいきません。記事は舞水端里に燃料注入施設が追加された可能性も指摘しており、発射が早まる可能性も指摘していますが、最近入手した情報によると、昨年からこの施設は関係筋の間で知られていたようです。ネット上に公開されている衛星写真では、この施設は確認できません。発射前の写真はネット上にありますが、最近のは手に入りません。東倉洞の燃料注入施設がどんなものかは「talent-keyhole.com」に掲載された詳細な写真で見られます。「Annotation of the Space Launch Facility」というタイトルが付いた写真の中にある「Fuel Storehouse」がそれです。同じ物が舞水端里にあるはずです。

 最終組立工場では、輸送中の破損を含めた機能チェックが行われ、発射台に設置できる状態にします。それから発射台に運び、クレーンで下から順番に組み付けていきます。そこで、また機能チェックを行い、それから燃料注入が行われます。それぞれの段階で問題が出れば、その都度、作業はストップし、打ち上げは先延ばしになります。打ち上げ時期は政治的な理由だけで決まるものではなく、現場の状況に大きく左右されることを認識すべきです。だから、あまり政治的なスケジュールをからませて考えない方がよいのです。

 ちなみに、2008年に撮影された東倉洞の写真を見ると、ロケットを直立させて組み立てる施設がまったくできあがっておらず、ここでの発射は無理そうなことが分かります。この写真を先に見ていれば、ロケットが運ばれた先が舞水端里であることは容易に判断できました。こういう写真が公開されていたのに、なぜあのような誤報がまかり通ったのかは本当に不思議です。


コブラボールの派遣が意味するのは?


 米軍が保有しているコブラボールは全3機。このうち2機を嘉手納に展開させたことは、オバマ政権発足直後から発射準備で揺さぶりをかけてきた北朝鮮に対し、米側が強い軍事デモンストレーションに出たとの見方がある。(産経新聞)


 常識で考えても、舞水端里発射施設を24時間監視するには、最低でも2機のコブラボールを交替で稼働させる必要があるのは明白です。だから、3機のうち2機を派遣したから「強い軍事デモンストレーション」とは言えないことくらい、小学生でも判断できるはずです。この種の「物々しく書けば、軍事記事らしくなる」という記事の書き方から、日本のメディアはいい加減に卒業すべきです。


テポドン2号は「改良型」なのか?

 今度打ち上げられるかも知れないテポドン2号が改良型で、射程1万kmでアメリカまで届くという報道があります。これはおそらく、一般的なロケット開発のプロセスとテポドン2号の開発状況から来る推測です。専門家は現在のロケットから、将来の開発についても推測するもので、テポドン2号にも、将来の青写真がすでに出ています。それらから、次は射程を伸ばすだろうという話が出るわけです。しかし、まずは現行の機体で打ち上げを成功させるのが先決であり、今回で射程の改良まで手をつけるかは大いに疑問です。


イランのロケット打ち上げの影響

 2月2日にイランがサフィール・ロケット打ち上げ、人工衛星を低軌道に投入するのに成功しています。イランと北朝鮮はロケット開発で協力関係にあるので、イランの技術レベルは北朝鮮のレベルを判定するのに用いられます。globalsecurityのチャールズ・ビック氏が最近更新した論文によると、サフィールはテポドン1号を大幅に改良し、小型化した性能だと、以前の評価が修正されていました。テポドン2号の設計は1号とはかなり違うので、イランの打ち上げ成功がテポドン2号の打ち上げに直接影響するかどうかは明確ではありません。


「その時」に注意すべきこと

 テポドン2号が打ち上げられるとすれば、すでに宇宙空間に達した、1段機体を切り離した機体が津軽海峡付近を通過します。これによって、日本はまた大騒ぎになるのが避けられません。「二度も領空侵犯を許した」という間違った常識が、国民の間に広まる危険があります。国民の多くはそれほど正確にニュースを記憶していないものです。日本政府が正しい情報を発信しても、様々な報道が繰り返される中で話が歪曲されて記憶されるかも知れません。ただし、テポドン2号が本当に人工衛星の軌道投入に成功すれば、前回の目標がアラスカだったとか、ハワイだったといった、誤った認識は正されることになるでしょう。そして、今度は打ち上げの映像が公開され、テポドン2号の本当の姿が分かることになります。しかし、日本国民の反応に関しては、あまりよい想像ができません。


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