陸軍長官と参謀長のメッセージ

2009.12.9
2009.12.10 修正

 military.comによれば、ジョン・マクヒュー陸軍長官(Secretary of the Army John McHugh)とジョージ・ケーシー・Jr参謀長(Chief of Staff Gen. George Casey, Jr.)が共同で、幹部隊員に向けて出したメッセージの全文を以下に掲載します。(原文はこちら


 昨夜の大統領のスピーチは見たことと思う。見ていなければ、コピーが添付してある。スピーチはアフガニスタンで我々が進む道を示している。大統領は、アメリカがアフガン人へ治安権限を移譲する状況を作るための、これからの18ヶ月間のために、我々がアフガニスタンに30,000人の兵士を送ると宣言した。

 我々は諸君に、来る数ヶ月間にこの決定の一部を遂行し、部隊を長い間安定させるのを確実にするために、二つのことを行って我々を助けることを望んでいる。

 第一に、これらの部隊を受領するため、我々は彼らが地上において成し得る効果を最大化するために、できるだけ早くに、部隊と戦域を整備するのに、我々ができることのすべてをなさなければならない。

 第二に、我々は諸君に、諸君の兵士、軍属、家族のもとに行き、これが彼らにどのように影響するかを彼らに理解させることを望む。それは彼らが心配するほど大変ではないだろう。

 上級の指導者たちは、陸軍の大統領の決断を全面的に支持すること、それが兵士たちが彼らの任務において勝利を得るための最高の機会を与えだろうと理解することを強調した別の添付ファイルを同封した。それは兵士、陸軍省の軍属、陸軍の家族に何を伝えるべきかについても詳しく述べている。それらのメッセージの本文において、それらは次のキーポイントを強調している。

−我々が部隊のリストを決定した時、特定の部隊の通知を開始するのに数日間かかる。

−過去5年間に渡る陸軍の成長(2004年以降70,000人の増員。その中の40,000人は過去2年間に増員)とイラクにおける減少のため、我々はこの増員を以下のことなしに遂行できる。

−15ヶ月間の海外派遣
−派遣間の12ヶ月間未満の帰還
ストップロス制度*から生じる計画の停止

−イラクにおける減少が概ね日程通りに続くと仮定して、我々は現役部隊で1:2、予備役部隊で1:4という2011年会計年度の目標「BOG:dwell」*に向けて進歩も続ける。大統領命令による増加を加えても、我々は現役部隊の約70パーセント、予備役部隊の約80パーセントが、2011年に向けて我々が設定した「BOG:dwell」の目標を達成すると予測する。その他の部隊も居住率が増加し続け、2012年までに目標に達するだろう。

 このメッセージは次のとおりに結論する。

 我々は陸軍の家族に対する諸君の懸念を共有する。我々は我らの兵士、家族、陸軍の軍属、退役軍人がこの戦争で重荷を抱えていることを理解し、彼らの貢献と犠牲にバランスが取れた高レベルのケアとサポートを提供することに取り組んでいる。

 我が陸軍は国家の求めに応じるのを決してしくじらない。過去8年間にわたって我々が成し遂げたとおり、我々はこの挑戦を掲げるであろう。我々はアルカイダを混乱、解体、打破するための我々の役割を行い、彼らがアフガニスタンやパキスタンに戻ることを妨げ、タリバン武装勢力の勢いを反転させ、イラクにおける我らの任務を成功裏に完了させるだろう。アメリカ国民はそれ以上を望まない。

マクヒュー長官 ケーシー大将

*ストップロス制度 兵役の契約期間が終了した兵士の兵役期間を延長する制度。

*BOG:dwell 地上軍(boots on ground: BOG)の派遣期間と派遣の間の帰還の期間(dwell)の比率のこと。


 このメッセージは米軍の隊員に向けられており、我々に日本人には関係しないと考えるべきではありません。こうしたメッセージからこそ、対テロ戦争で何が問題となっているかを読み取るべきです。

 メッセージには、米陸軍が大統領の決断を完全に支持することが示されています。スタンリー・マクリスタル大将は大幅な増派を求め、オバマ大統領に却下されましたが、これ以上の反論はあり得ません。これは不思議なことではありません。軍人は上官の決断に従うように教育されており、一端、会議で決まったら、後は実行することだけを考えるものです。過去の戦例を見ても、上官が誤った判断をしていると分かっていた場合でも、命令を受けると部下はその通りに実行しようとしています。もともと、軍人は使命を達成することばかりが頭にあり、それ以外のことは考えようとしないものです。従って、国家戦略の最も大事な部分は政治家が明瞭に、かつ正しい判断をして、優秀な軍人にそれを実行させるという形が理想的です。ブッシュ政権のように、判断を将軍に任せて、自分はそれに従うという態度は最悪です。軍人には国家を代表して物事を決める権限は与えられていません。しかし、大統領が判断を任せると言うときに、軍人は断ることはできないもので、政治家が明確で達成可能な支持を与えてあげることが、実はとても大事なのです。今回、明確な指示が出たことで、軍は18ヶ月間でアフガン軍・警察を治安権限を移譲できるまでに訓練し、退却を開始できるのです。アフガン軍・警察の訓練については、前から指摘しているように、数字をいじることで何とかなるわけで、有り体に言えば達成しなくても構いません。とりあえず、格好つけられるまでにしたら、あとは「あなたたちの国はあなたたちで守れ」とばかりに撤退すればよいわけです。世界のどの国も、この当たり前すぎる理由には逆らえないのです。その証拠に、今回のメッセージにはアフガン軍・警察の訓練を最優先せよという話は一つも書かれていません。

 反対に強調されているのは、軍人の家族などの不安を和らげようとする文言です。陸軍が増員の努力を続けたお陰で、これからは派遣任務も楽になるという説明があり、それを周囲に宣伝するようにというお達しです。当然ですが、軍人の家族は派遣されている家人が無事に帰ってくることを望んでおり、関連するニュースには欠かさず目を通しています。その人たちを、18ヶ月後にはアフガンから撤退が始まるから、もう少し辛抱して努力して欲しいと説得しようとしているわけです。ここにアメリカ人の本音が垣間見えます。アフガンの治安向上は、それ自体に関心があるというよりは、家人が帰ってこられるかどうかに関係しているから間接的に関心があるという程度です。アルカイダが再び米本土を攻撃するのは困るけど、アフガンがタリバンに支配されても、それだけならば問題はないわけです。メッセージにアルカイダの打倒が掲げられているものの、皮肉にもメッセージの中心にはないように思われます。

 なんだか、すでに戦いの目的が失われているという感じがしますが、おそらくその通りなのだと思います。今後、アルカイダを崩壊させるための戦略をどうするか。これまでのような現地国民に横暴な戦争文化をどう変えていくか。これは世界中が考えていくべきことです。しかし、世界の眼はそれ以前の部分にしか向けられていません。


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