アフガン新戦略に対する評価

2009.12.3

 オバマ大統領がアフガニスタンの新戦略を発表したことに対し、各方面からの反応が報じられています。

 military.comによると、ジョン・マケイン上院議員(Sen. John McCain)は、「撤退期日を明らかにすることは誤り」だと主張しています。これはイラク戦でも言われたことで、ブッシュ政権はテロリストに誤ったメッセージを与えないためという理由で、撤退期日を明らかにしないという方針を貫きました。しかし、これは目的を達成するまでは撤退しないという方針を支持するための理屈で、このために必要な決断が遅らされてきた経緯があります。すでに状況が悪化しているのに、ズルズルと戦争を続けるのは、他の戦争でも見られた悪癖です。マケイン上院議員は、こうした使い古された、意味のない言葉を繰り返すしか能がない上、周囲の反応をみては決断を変えるというミスを繰り返してきました。彼が大統領選でオバマを打ち破っていたらと考えると、ゾッとします。

 military.comによれば、マクリスタル大将は、アフガン政府と国際的なパートナーが、これからの18ヶ月をタリバンに勝ち目がないことを納得させ、武装勢力に威厳を保ったまま反乱を終わらせる方法を提供することに使うべきだと述べました。大統領の演説の直後、マクリスタル大将は18ヶ月のタイムテーブルはアフガン軍を増強し、アフガン国民に自国の治安を守れることを納得させるのには十分だと述べました。マクリスタル大将は当初、自分に課せられた任務を完遂するために多くの兵を要求しましたが、この発言では1年半で目標を達成できると主張を変更しました。大将は大統領の決断に積極的に従う姿勢を示したことになります。私の考えでは、18ヶ月は短すぎて、こうした目標を達成するのは不可能です。アフガン政府は大統領の新方針を歓迎しながらも、治安権限の移譲と撤退期限を示すのは止めて欲しいと言っています。マクリスタル大将も18ヶ月が軍事的に意味がある言葉とは考えていない、と私は考えます。オバマ大統領もマクリスタル大将も、対外的な反応を考えて発言しているのであって、アフガン戦の状況に、犠牲が多い割には好転が見られないこと、戦費が増大していることから「撤退」するのが本当です。

 こうした事実をまったく理解しない記事もあります。産経新聞の山本秀也記者は「新たな戦略の鍵は、兵力の増派が、アフガン全土でゲリラ戦を展開するイスラム原理主義勢力タリバンを抑え込み、パキスタンとの国境地帯を『聖域』とする国際テロ組織アルカーイダを封じ込める決め手となるのかどうかだ。」と書いています。3万人の増派でタリバンとアルカイダを撃破できるのなら、これまでの努力で達成できたはずです。今回の増派は撤退までのつなぎに過ぎません。それも、軍事的に必要な「つなぎ」というよりは、米軍を納得させるためのものであり、政治的な意味合いが強い決定だといえます。これまで、アメリカの大統領は前線指揮官から要請があれば、そのまま承認するのが常でした。ブッシュ政権に至っては、こうした判断を指揮官に丸投げし、その判断に従うと声明していたほどです。オバマ政権は増派を承認しましたが、ギリギリのところまで兵数を減らしたのであり、これは歴史的にも珍しいことなのです。CNNに「華氏911」のマイケル・ムーア監督が出演し、「ビンラディンがいないところに増派するのは誤り」「軍の間違った報告に従った」と批判していますが、過去の政権に比べると、最大限に政治主導を貫いたと言うべきなのです。

 軍事的な考察だけから言えば、アフガン戦もイラク戦に続く「敗北」でした。しかし、それをそのまま正直に発表すれば、米軍の威信が失墜するため軍部の協力を得られにくくなりますし、テロ組織に宣伝のチャンスを与え、協力国の支持も得られにくくなります。その上で、真意を理解してくれる人を確保する必要もあり、結果としてあのような演説内容になるわけです。

 一方で、戦いはまだ終わったわけではありません。アルカイダやタリバンのような組織は、存在価値がなくなれば消滅する可能性があることを忘れるべきではありません。問題はこの増派ではなく、次に何をするかです。財政上の問題からも、これまでのように特定の地域に大軍を送り込むような方法はとれません。ここ数回でアメリカがとるべき戦略について解説してきましたが、その筋で改革が行われることを望みます。これはアメリカの戦争文化に大きな変化をもたらす可能性があるほど、大きな出来事となるでしょう。

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