対テロ戦争の迷走

2009.11.5

 現在の対テロ戦争の矛盾を象徴するような出来事が起こりました。military.comによれば、オーストラリア国防軍は、米陸軍のデビッド・ペトラエス大将(Gen. David Petraeus)にオーストラリア勲章(the Order of Australia)を授けると発表しました。

 これは、2007年1月26日〜2008年10月30日まで、イラクの多国籍軍の指揮官としての役割に対して与えられたものです。ペトラエス大将は現在、中東と中央アジアを管轄とする中央軍の司令官を務めています。その他、理由が並んでいて、彼が困難な状況で多国籍軍を導いたことを称賛していますが、私には納得いかないものなので省略します。

 一方、military.comによれば、アフガニスタン、ヘルマンド州、ナド・アリ区(Nad Ali district)、シナ・クライ(Shina Klay area)で、アフガン人警察官を訓練していた5人のイギリス兵が、訓練を受けていた警察官によって射殺され、6人が負傷しました。詳細は明らかではありませんが、発砲した男は警察官のユニフォームを着ており、現場から逃走しました。犯人がタリバンのメンバーかどうかや、犯行の動機は不明とされています。死亡した兵士の内、3人は近衛歩兵第一連隊(the Grenadier Guards)、2人は憲兵隊(the Royal Military Police)の兵士でした。

 先進国同士が仲良くして、互いに褒め合い、対テロ戦の成果を称賛し合う姿は、まさに「金持ち喧嘩せず」の構図です。これは国連をも巻き込み、世界的なムーブメントとなっています。その一方で、アフガン人による外国人兵士の殺害事件が止みません。これは、明らかに対テロ戦争の成果があがっていない証拠です。

 本格的な国際組織は赤十字組織の発足に端を発し、発展を続けてきました。それは悲惨な戦場の血だまりから生まれました。戦場であまりにも多くの兵士が死傷し、放置されている事実が赤十字組織を生み、その後に、様々な国際組織が発足するようになったのです。しかし、組織は大きくなるほど官僚化し、形骸化するものです。国連も本来の理想を忘れ、大国同士の互助会へと成り下がり、アメリカが始めた誤った戦争指導にお墨付きを与えています。ペトラエス大将は主にイラクで指揮をとりましたが、大きな功績を果たしたかと言われても思い出すものがありません。最近、イラクではテロ攻撃が続発し、イラク軍に武装勢力が入り込んでいる可能性が疑われています。このイラク軍を再建したのがペトラエス大将でした。そんな彼に勲章を与える必要があるとは思えません。そもそも、中東やアフリカは主にヨーロッパ諸国が支配しようとした時代があり、それが未だに遺恨を残しています。タリバンがあらゆる欧米的なものを嫌悪するのには、そうした理由があります。我々はむしろこの格差を小さいものにする努力をすべきなのに、その反対の政策に夢中です。これでは、同じ悲劇を繰り返すことにしかなりません。

 日本とて、例外ではありません。防衛省はISAF本部への自衛官派遣を検討しているといいます。鳩山総理は「望ましくない」と反対していますが、私も同意見です。ISAF本部に自衛官を派遣すれば、武装勢力はそれを日本が敵である根拠とするでしょう。タリバンは国際支援団体ですら侵略の尖兵とみなします。武装組織であるISAFに参加すれば、武装勢力がどう考えるかは明白です。

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