障害を持つ元兵士の就職難

2009.11.19

 military.comがPTSD(心的外傷後ストレス障害)を負った帰還兵が仕事を得るために苦労している状況を報じました。

 ノースロップ・グラマン社で働く、記憶障害を持つイラク帰還兵のリチャード・マーティン氏はMBA(経営学修士)の資格を持っていますが、PTSDと脳障害によって仕事を失うことを恐れています。彼は机の前に付箋を貼り、ヘッドホンで集中力が分散しないようにする工夫をしています。マーティン氏は幸運です。雇用者は「目に見えない傷」を持つ元兵士を雇う術を知らず、仕事ができないのではないかとか、ある日突然にキレるのではないかと心配しています。(文末の註釈も参照のこと)

 陸軍負傷兵プログラム(The Army's Wounded Warrior Program)は、こうした傷痍軍人が仕事を見つけるのを手助けする仕事をしており、運営を開始した昨年以降、約90人の元兵士の就職を実現しました。負傷兵プログラムの5,400人の現役・退役軍人の3分の1、1,950人はPTSD、970人は脳外傷、770人は切断手術を受けています。陸軍負傷兵プログラムは兵士を教育し、雇用者に障害の説明を行っています。障害には、軽度の記憶喪失から、活力を失わせるフラッシュバック、些細なことで爆発する気質があります。傷痍軍人には傷害保険金が与えられ、どうにか生活していく分には十分な額です。しかし、多くはプライドから就労しようとします。しかし、こうした障害を持つ軍人を受け入れる雇用者が少ないのが問題となっています。イラクで2度の爆発により脳外傷を負ったカイル・ソールズベリー氏は退役後就職しました。負傷した帰還兵を雇うことで雇用主は興奮を憶えましたが、ソールズベリー氏はひどい頭痛のために仕事ができませんでした。次にトラックの運転手をやりましたが、時折吐き気がするのと視力がぼんやりとする問題があり、仕事を辞めました。現在、妻と3歳の甥と共に暮らす彼は、次に何をするかを決めるため、コミュニティカレッジに通っています。月額3,000ドル未満の傷害保険金では、請求書の支払いを済ませると、後に金は残らないと、彼は言います。

 IEDの爆発がもたらす怪我で理解しにくいのは、頭部を激しくぶつけたり、急激な加速を受けたために、記憶が続かないとか、何をきっかけにフラッシュバックが起きるとか、ちょっとしたことで激高したり、涙ぐんだりといった、一見心理的な問題に見える症状が起きることです。先に、こうした障害を持っていると運転手の職は得にくいと書きましたが、実際にそうした問題が起きていたことが確認できたわけです。戦争による負傷というと、四肢の切断や裂傷を連想させますが、実際にはこうした様々な問題が起こります。外科的には怪我が完治しても、あとには見えない傷が残るのです。その結果、人生に自信が持てなくなり、ある者は自殺を試み、ある者はホームレス化します。こうした話を、これまでに何度となく見てきました。状況は深刻なのに、第三者はそれを理解しません。それどころか、ある日、銃を乱射したりしないかと心配するのです。先日の、フォート・フッド基地での乱射のような事件が起きると、ハサン少佐がPTSDであったという証拠がなくても、世間は兵士と暴力事件を結びつけて考えます。兵士を「アメリカの英雄」だと褒め称えても、負傷するとこの扱いなのは本当に不思議です。戦争にまつわる疑問として、こうした矛盾する倫理についても研究が試みられるべきかも知れません。

 小泉政権がイラクに陸上自衛隊を派遣することを決めたとき、こうした問題についても考察した日本人がどれだけいたのかが気になります。平和な時代が続き、日本では戦争がもたらす「見えない傷」についての理解は、アメリカ以上に減っています。あの時、熱狂的に小泉政権を支持した人たちは頭を冷やして反省すべき時が来ています。

註)記事中の「キレる」は「go postal」という言葉で記述されています。これは、1986年8月20日、米国オクラホマ州エドモンド市の郵便配達員が上司の叱責に腹を立てて同僚14人を殺害した事件から生まれた言葉です。この事件をモチーフにしたパソコンゲームもあります。


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