護衛艦「くらま」衝突事故の疑問点

2009.10.29
同日 17:40 修正

 護衛艦「くらま」(5200トン)と韓国籍のコンテナ船「カリナ・スター号」(7401トン)が衝突した事故の概要が分かってきましたが、真相は依然として不明なままです。

 海上保安庁が発表していないのか、メディアが伝えていないのかは分かりませんが、時間軸に沿った両船の位置関係が未だに報道されていません。それが分からないと、事故の原因は特定できません。これまでに、テレビニュースのCGアニメーションや新聞のイラスト地図で両船の動きが説明されていますが、これらはGPSデータを元に作成したものではなく、コンセプトを表現したものに過ぎませんし、その内容もメディアによって微妙に異なっています。これらを元に事故原因を評価するのは避けるべきです。これまでに報じられたことからは、カリナ・スター号がくらまの前に進出したために衝突が起きた可能性が高く、おそらくは、真相もそうであると考えられますが、肝心な情報が公表されていないので断定はできません。たとえば、くらまが航路のどの辺を進行していたのかも、事故を評価する上で重要な情報です。あまりに中央寄りを航行していたのなら、対抗する船舶と衝突する可能性は高まりますから、それも評価する必要があります。

 読売新聞によれば、両船は12~14ノット(時速22~26km)で進んでいました。両船とも特に高速で移動していたわけではありません。問題はカリナ・スター号のやや左前方を進んでいた別の貨物船の速度が遅く、このままではカリナ・スター号が追突するので追い越しをかけたという点です。読売新聞が掲載したイラストでは、カリナ・スター号は貨物船の右舷側を通り越し、その後、左に転進してくらまと衝突しています。貨物船は追い越したいというカリナ・スター号の要請を海保の管制官から聞いて、右に寄るから左側を追い越させて欲しいと返答し、カリナ・スター号は管制官からそう指示されて「了解」と答えたといいます。貨物船を追い越したのなら、すでに転進する必要はないのに、カリナ・スター号は航路をはみ出す形で左に寄って衝突事故を起こしていることになります。私はこのイラストが正しいのかどうかが非常に気になっています。これを判断するには、やはりGPSデータを元に描かれた図が必要です。また、これらは別としても、対面する航路へはみ出す操船をした理由も知りたいところです。さらに、管制官が貨物船の左舷を追い抜けとカリナ・スター号に指示したことの妥当性も、各船の位置関係が分からないと判断ができません。(注意 本日午後に配信された産経新聞の記事によると、カリナ・スター号は最後まで貨物船を追い越さないで、くらまに衝突したとのことです。よって、ここで私が述べた疑問は本来の意味とは違うものの、その一部は解消されました。

 すでに「『くらま』は悪くない!」といった軍艦マニアや海自ファンの感情的な声が多数出ているとは思いますが、そうした発言はまったく意味がありません。肝心なのは真相の解明です。


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