オバマ政権の国防政策が明らかに

2009.1.29



 オバマ政権下が防衛部門でどのような政策をとるかが次第に具体化してきました。


高額な新兵器計画の放棄

 ロバート・ゲーツ国防長官によれば、オバマ政権は、海軍の沿海域戦闘艦(Littoral Combat Ship)やF-35戦闘機のように高額な新兵器は、計画を縮小するか、予算を超過している計画を中止するという難しい選択をする準備をしています(記事はこちら)。

 アフガニスタンとイラクの戦争の要請と国家的な経済危機により、兵器の開発は、本当に必要な物の中から、望ましい物を切り分けることを軍に求めているとゲーツ長官は述べます。包括的な削減は避け、必要としない計画を選んで、予算の節約を図ります。この方針変更は2010年から実施されますが、どの計画が対象となるかは未定で、春に発表される予定です。

 海軍で開発中の内、最も開発費がかかっているのは、フォード級空母とDDG-1000駆逐艦です。フォード級空母の開発費は、現役のニミッツ級の2倍以上の140億ドル近くです。2番艦以降は約80億ドルに落ちると、海軍は主張します。空母建造の下請け業者は全米40州に渡って存在しますが、一部の議員から11隻の空母艦隊が必要かという疑問が継続的に出されており、政権にとっては魅力的なコストカットの目標となっています。30億ドル以上かかっているDDG-1000駆逐艦の建造は、昨年の夏に2番艦で建造を終了すると発表されましたが、設計・建造しているニューイングランド州の議員から抗議があり、海軍は3番艦の建造を決めました。沿海域戦闘艦は2億5,000万ドルから5億ドルへと開発費が高騰しています。

 イラク戦争という壮大な無駄のお陰で、対テロ戦争は何か縮小が必要になると考えられてきました。イラク撤退はその一つですが、それだけでは足りず、新兵器開発にしわ寄せがいくようです。以前から、陸軍の未来戦闘システム(FCS)計画を中止すべきという声が、各方面から出ており、それらはこのサイトでも紹介してきました。

 記事があげたのは開発費が高額な計画で、これらが対象に決まったわけではありません。今回の発表で注目すべきは、包括的な削減・中止ではなく、不必要なものを選んで削る方針です。高額な兵器は海軍と空軍に集中しており、今後、どれを削るかで軍と政府の間の議論が白熱することになります。記事にもあるように、高額兵器は生産地の地元への経済効果が大きく、軍事理論に関係のない経済的な理由で決定がなされることもあります。地元と政府の議論も激しくなることでしょう。どの計画に手を入れるのか、春の発表が非常に期待されます。その内容によって、オバマ政権の評価も大きく変化します。こうした決断には、「それは他の計画でやってください」という要請が、該当部門から出され、激しい抵抗に遭うからです。オバマ政権がそれでも削減できるのなら、その力は誰もが認めるところとなります。


パキスタン領内でのミサイル攻撃

 オバマ大統領は、パキスタンへの無人攻撃機「プレデター」による空爆は継続する方針であることが、ゲーツ長官により上院軍事委員会に示されました(記事はこちら)。先週、パキスタン国内でミサイル攻撃があり、少なくとも22人が死亡しました。昨年8月以来、30回以上のミサイル攻撃が行われています。ゲーツ長官は「ブッシュ大統領とオバマ大統領はどちらも、アルカイダがどこにいようと追うことを明言しており、我々は彼らを追跡し続けます」と述べました。カール・レビン上院議員が「この決断はパキスタン政府に通告されたのですか?」との質問すると、ゲーツ長官はそれを認めました。

 先週、パキスタンでエジプト人のテロ容疑者8人を殺害した2度のミサイル攻撃で、民間人が死亡したとパキスタンは主張しています。CIAは、どのミサイル攻撃もこうした主張を生むと考えています。退役した米軍情報当局者によると、こうした主張を確認するのに、通常3日間かかるといいます。プレデターがミサイルを発射するのは、その任務の20〜30%で、残りは監視と諜報活動です。アフガニスタンとイラクで、24時間体制で活動する無人偵察機は、去年5月に24機だったのが現在は33機に増えています。

 過去に、民間人の死者が報告されたのに米国防総省は「事実なし」と発表し、あとで訂正する羽目になったことがあります。無人偵察攻撃機の活動はアルカイダの活動をやりにくくするので、効果があると考えられています。これを中止するわけにはいかないのが、アメリカの事情です。お陰で民間人の犠牲が繰り返し出ることになります。


兵士の休養期間の延長

 興味深いことに、記事には、ゲーツ長官は直接「プレデター」に言及せず、パキスタン国内にいるアルカイダへの攻撃を続けると説明したと書かれています。パキスタンを刺激しないようにという配慮でしょう。

 ゲーツ長官は、今年10月までに、陸軍と海兵隊の戦闘任務の兵士は12ヶ月間の派遣後、15ヶ月の休養期間を得るようになり、2011年10月までに30ヶ月にすると述べました(記事はこちら)。2011年後期までに、米軍はイラクから撤退する予定です。その頃に休養期間は30ヶ月まで伸びるということです。こうして重要なアフガンへ兵力を集中できるようにするのです。

 ラムズフェルドが国防長官の時に引き延ばされた派遣期間が、ようやく元に戻り、さらに延長されるようです。これで、PTSDの問題は多少改善されるかも知れません。PTSDは休養期間を長く持つことが必要と言われています。



 全体として、ブッシュ政権下では顧みられなかった問題、専門家が指摘し続けてきた問題を、オバマ政権が拾い上げて実現しようとしているという印象です。戦争指導という点では、これはすべて正しい方向に進んでいるといえます。もちろん、これは戦争をするための政策の評価であって、平和という観点での評価ではありません。アメリカのためにはよいけども、それ以外の国やテロ組織にはありがたくないものも含まれています。それでも、ブッシュ政権の誤りを訂正するには、これらは避けて通れない問題です。オバマ政権の評価を今、この段階で定めることはできません。対テロ戦争の問題が解決されるには、長い時間が必要です。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.